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トロける5000年

ワッサンボン

[ワッサンボン]

キャラID
: XG969-178
種 族
: ドワーフ
性 別
: 男
職 業
: 武闘家
レベル
: 122

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ワッサンボンの冒険日誌

2020-09-13 16:21:59.0 テーマ:その他

甘々の冒険者達『54話・夢の続き』(DQX二次創作)

DQX及び蒼天のソウラの二次創作。

◆◆54話 夢の続き◆◆

 大勢の者が見守る中でスウィ~トは姿勢を正す。
 二つの菓子に向き合うと小さく祈り、まずはアイシスのマグロ入りマドレーヌを手にする。

 濃厚なバターと卵、それに蜂蜜の甘い香りと共に不思議な煮詰められた香りが混じるのを感じながら豪快にがぶり。

「うん。バターと卵、蜂蜜の絶妙に絡み合った甘さが口内に広がっていくね」

「むう! だがこれはさざ波にすぎない!?」

「っ!? 人の口という神秘の海でマグロは文字通り水を得た魚となった! 魚肉のダシが甘じょっぱい…そう、ひとつ大人の刺激を打ち込み、海の深さをこの舌に踊らせていくっ!!」

「だがその深みに呑み込まれぬように、ふかふかの生地が甘く広く…味覚を包み込んでいく」

 一口ごとにテンションを上げるその姿に幽霊の瞳が輝いていく。
 見物人の桃色長髪の魔術師が、ふむ。絶妙な合成具合を想像させるコメントですねと一つ頷き唾をのむ。

 スウィ~トスター☆の本能がギャラリーの反応を敏感に捉えて、充足感を感じながらも頭は冴えていく。
 激しくなった動悸を静めるためにも水で舌をリセットして、ゆっくりと息を吐く。

 一方で次の一口を待つ観客には静かな緊張感を味合わせつつ、じっとリモニーザのマグロ餡かぶと焼きを見つめる。

 防具鍛冶職人の協力を取り付けて頭部の金型まで用意したその再現率は、見た目のインパクトが桁違い。
 満を持してそれを手にする。

「手にしただけでぎっしりと詰まった餡が感じられるこの重量感…期待が膨らむよねぇ」

「香りもさらに濃厚で…あむっ」

「噛み切る際の一瞬の抵抗…ほろほろと餡と混じり始めるカステラ生地、これは絶妙」

「そして鼻腔に抜ける疑いようのないマグロの香り! 固くならぬように繊細に煮詰められた身のごろりほくっした食感!」

「咀嚼するごとに餡とカステラと溶け合いながらマグロ本来の脂質…濃厚な命の味をブレさせない…本気! 超・本気がやってくるーぅ!!」

 肩で息をしながら評するスウィ~トの姿に、幽霊どころかユルールやイズナ達、はては入り口から覗いていた多数の冒険者からも拍手が巻き起こる。
 花飾りの帽子の少女は連れのモーモンと食べてみたいねぇ!と拍手をしながら頷き合っている。

「うひ~っ! 盛り上がってるぅ」
「そいでどっちが優勝っと?」
「勝った方がグランドタイタスのお土産になるんだっけ?」
「そういう話ではなかったはずだが…ん?」
 遅れてやって来た四人組が中を覗き込んだ時、幽霊がゆらりと空中へと浮かび上がっていた。

「ごちそうさまでした」
 目を閉じて食後の感謝を捧げてスウィ~トが眼前に浮かんだ幽霊へと視線を向ける。

『マグロでスウィーツなど…愚かな試みだったのかもしれない。命を落としてそう後悔しても…この魂はその夢を手放せなかった』
 幽霊の陰さす顔が見下ろす。

『夢幻の如く繰り返した霊体の試行錯誤は…おまえ達に出会って本物になった』
 両の目からほろりほろりと雫が零れる。

『話を聞き、材料を集め…、調理し、食す』
 シアを、ユルール達を、アイシスとリモを、そしてスウィ~トへと首を巡らし、幽霊は万感を込める。

『私の夢は故郷の銘菓たりえたのだな?』

「ま・だ・だ・よ!!」

 厳粛な空気すら流れる中でスウィ~トは答える。
 驚愕の声があちこちで小さく上がる中で、アイシスとリモだけはうむと頷いていた。

「ボクはスウィーツを語る冒険者だからね。誤魔化しは言わない。これは夢の第一歩。今この時から走り出した美味しさ! キミの望んだ本当の菓子の入り口だよ!!」

『おおぅ!? うわぁぁ!!』
 こぼれた雫は滂沱となり幽霊は身を捩る。

「しっかりしろ! よく見ろ! 聞けっ! キミは終わるはずのものを守ったんだ。グランドタイタス号の光に導かれて、ボク達に出会ってこの二人に夢の先を手渡したんだよ!!」
 アイシスとリモニーザを指さして腹の底から叫びをあげる。

「だから思い出せ! キミの名はなんだ! マグロスウィーツの元祖としてボクが語り継ぐその名はなんだ!!」

『元祖…名前……』

「キミはやるべき事をやったんだとボクは思う。だから後は今を生きてるやつらに任せて欲しい」

 両手を宙に伸ばして微笑むスウィ~トの大きな愛嬌のある顔につられるようにして、幽霊の表情が緩む。

『サンザキ…ああ、思い出した』
「お疲れ様。サンザキさん。新しいスウィーツに会わせてくれて、ありがとう」

 触れられないはずの手をスウィ~トは掴む。
 それは悪霊を静める踊り子の家系に生まれたゆえか。ほんの一瞬の小さな奇跡。

『後を頼む、よ…』
 サンザキは抱えていたものを言葉と共に手放す時を…迎えた。
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