寄り道は甘々の冒険者達の外伝的な何かです。
私個人の二次創作です。
ご本人さん公認ではありません。ご注意ください。
◆◆ お孫さん救出同盟?◆◆
「事件を追うもう一組の影…なるほどあなた達でしたか」
パイプをくゆらせて待っていたのは落ち着いた声音のオーガ男性だった。
「気づかれずにあの家屋を偵察するにはここが最適。あとは待つだけでした」
身構えもせずに告げるのは探偵紳士ヤタ。
数々の難事件を解決に導く探偵にて冒険者。
「そういう探偵のもったいぶった言い方きらーい」
こっちだってそっちの存在には気づいてたのよと指を突き付けたのはラズ。
ポニーテルをリボンで結んだウェディの女性は勝気な表情を崩さない。
そもそも二人には因縁がある。
片や探偵であり、方やラズベリー盗賊団のボスその2。
──ちょっと! その2はひどい! いやうちは確かにボスが二人いるわけだけどっ!!
いくつかの事件では互いに煮え湯を飲まされた関係なのだ。
──こらーっ! 説明文、無視するなー!!
「しかし今回は誘拐事件だよな? 盗賊団がなぜ追っている?」
ヤタの身を守れるように半歩前に出たのは盾を携えたエルフの剣士だ。
「目的は同じく救出ですよアレスさん」
「金銭目的のわけないよな。彼女はごく普通の一般家庭で育った少女だ」
「その通りなのですが、一つ胸の内にしまっていたことがありまして…彼女の家系は遡ると裏社会に通じていました」
「ふむ。そのくらいの事、言ってくれれば……オレが人を守る時に些かの迷いにもなりはしないぞ」
そうですね。失礼でしたとヤタが謝罪する。
「そこまで調べてるのか。そこはさすが探偵紳士だね。素直に褒めておくよっ」
なんだかいい感じのやり取りをする二人に向かって、空気を入れ替えようとラズが啖呵を切る。
「さて探偵紳士。その上でラズベリー盗賊団のやり方は知ってるわよね」
一定の美学をもって裏世界を渡る彼女達の誇りについて、確かにヤタは疑ってはいなかった。
「今回もお宝は完全無事に盗み出すわ。そのための仕込みも抜かりない」
「つまり…実行が迫っているわけですね」
眼光を鋭くしてヤタが問う。
「ちょっとその道のプロに協力を依頼してあるからね」
「具体的には?」
「爆破と煙幕。その隙につっこんじゃう♪」
「ちょっと! 大胆過ぎませんかそれはっ」
ぎょっとするアレスに心配ご無用とラズは胸を張る。
「会話だけだけどアルタムちゃんには接触済みだから言い含めてあるわ。しっかりした子よ。辛抱強く今日を待っててくれた」
だから絶対に失敗しないとその瞳が語っている。
「そういうのを聞かされると…弱いなぁ」
日を改めて、もっと作戦を練って、ここでそんな事を口にするなどアレスの選択にあるはずもない。
切望も悔恨も口にできずに耐え忍んだ彼女の事がちらりと過ぎる。
「わかった。なにが追ってきても止めてやるから逃げ切ってくれ」
「なんと。協力者兼ボディーガードに裏切られてしまいました。私も人徳がない」
わざとらしく嘆いてみせるヤタに、アレスは苦笑いするとばしんとその背を叩く。
「人命救助最優先! そのために謎を解くのが探偵だろう」
「そうですね。緊急措置です。決して盗賊団への協力ではありません」
「話は決まったみたいね! そろそろ時間よ。みんなも気合入れていくわよ!」
ラズの発破に団員達も頷き合う。
と同時にド派手な爆発ともうもうと沸き上がる煙幕。
その時点ですでにラズは走り出している。
美しい曲線を描く足がしなやかに軽やかに地を蹴り障害物を難なく飛び越える。
地形も何もかもを前回の接近で身体と勘で理解しているラズは、煙幕に飛び込んでもその速度を緩めない。
そして慎重に捜査と観察を続けてきたヤタもその点は引けを取らない。
さらには二人に比べて重武装のアレスも、ぶれることなく盾を保持したまま続いて煙幕に飛び込んでいく。
「ん。このタイミングなら成功間違いない」
さらに遠く海上の小舟から様子を窺っていたエルフの冒険者が腰を下ろす。
「相棒のお墨付きなら問題なしだな。じゃあたまには釣りを楽しもうか。夕飯用に持ち帰ってやろう♪」
「発破は使うなよ」
「うっ。りょーかい」
ほどなくしてサマベルの孫アルタムは傷ひとつなく救出されたのだった。