DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈、公式との齟齬もあります。
ゲストキャラの言動も私の妄想です。
問題ありましたらご一報ください。
対応いたします。
◆◆57話 足止め◆◆
その男はボク達に声をかけると、礼を言った。
「レンドアでのあなた達の活躍で、私もチケットを入手できました。有難うございます」
つば広の帽子の影の中、どこか浮世離れした雰囲気を持つ控えめな笑顔がただならぬ雰囲気を感じさせるが、不思議と恐怖心は湧いてこない。
紫のマントと大きな牙の首飾りが特徴的な旅装束の男は、名をクロウズといった。
「なんのことか、わからない? 勘違いかな」
怪盗団に参加しての活動を知られている事を警戒して、アイシスが素知らぬ顔で告げると、クロウズはふむと頷く。
「では過去の話は終わりとしましょう。少し未来の話を」
あしらわれた事に気を悪くした様子もなくクロウズは続ける。
「目的地はドラクロン山地だと聞きましたが、今はまだ辿り着けないと思いますよ」
ユルールとは顔見知りであり、その縁もあって知っているのだと補足したクロウズの言葉には、確信を持った人間の揺らがぬ芯があり、スウィ~トとアイシスは顔を見合わせる。
「次から次へと藪から棒な人だねクロウズさんは~。一体全体どういうつもりなの?」
ららっ。らら!
なんだかもう普通に困ったなぁという顔で問うスウィ~トに、ざらめも飛び跳ねつつ同意しているようだ。
「お礼代わりに少し助言をと思っただけなのですが…確かに唐突ですね」
ドワ男とスウィートバッグの圧にも負けないクロウズは、口元に握った拳の人差し指を寄せて思案したように見えた。
「でしたらこれ以上はご迷惑ですね。ただもしも行き詰ったのならば……古の楽器職人シノバスの生家を探してみてください。ここでなら見つかるでしょうから」
クロウズはそれだけ伝えると会釈してスタスタと歩き始める。
「謎の…人?」
「うん、しかも結局彼も三門の関所に向かうみたいだしねー」
なら追いついてこっちから根掘り葉掘り聞いてみようかと頷き合ったスウィ~ト達だが、なんとも不思議な事に戻した視線の先にクロウズはいなかったのだ。
「まさか本当に…にっちもさっちもいかないとは」
「預言者だった?」
結論から言えばスウィ~ト達は行き詰った。
ドラクロン山地に向かうための門は兵士達によって厳重に閉めきられ、だれ一人通すことが出来ぬの一点張りであったのだ。
自分達をはじめグランドタイタスを下船してここでの足止めに途方に暮れた者も少なくない。
門が開かれているワルド水源を抜けて断崖絶壁や道なき道、いくつかの山を超えてドラクロン山地の南東側から向かう事も考えたが、とうてい地図で見ただけでべき選ぶルートではない。
「本当にシノバスの家を探しちゃう?」
良い案も浮かばず口走ったその言葉に、三門の関所に詰める兵士の一人が近寄ってくる。
「おー。通な名所を知ってるなあキミ」
「名所…なの?」
「神々の湯治先として語られるモンセロ温泉峡の程近くにある小さな村の有名人だよ。とはいってもずーっと過去の人だけどね」
白い歯が印象的なその兵士が語るにはシノバスは天才と呼ばれる楽器職人であった。
遠くエルトナの地にまで渡りその音楽界にて大きな功績を残しているらしい。
伝統と新機軸の融合、常識を塗り替える工法や素材の開発などで大いに名を馳せ、晩年故郷に帰ってきて後進を育成したのだそうだ。
「その人の生家がちょっとした記念館になっててね。観光としては通すぎると思ったわけだ」
「うーん、聞いたこともないなあ」
エルトナ大陸カミハルムイに生まれ育ったスウィ~トは首をひねるが、何百年も前の人の話だからと言われれば確かに納得できる。
だが覚えもないのに、シノバスの名は妙に耳に残った。
「どうする?」
「んー温泉饅頭とかあるかもしれない…かな?」
「そこまでは知らんなっ!」
アイシスが問い、スウィ~トが迷い、兵士が即答する。
「このままだとずっと悩んでそうだし、妙に気になるから行ってみよっか!」
「おー! 気を付けてなあ」
村の場所を尋ねて兵士に見送られると、元来たココラタの浜辺へと続く側の門をくぐる。
モンセロ温泉峡へは南側に進路をとる。
突然の助言と奇妙な縁に導かれ、スウィ~トは歩を進めるのだった。