DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈、公式との齟齬もあります。
ゲストキャラの言動も私の妄想です。
問題ありましたらご一報ください。
対応いたします。
◆◆58話 ジョイフー◆◆
「また船に逆戻りとはねぇ」
魔族の姿へと戻ったイズナは固定された椅子の微妙な座り心地に、わずかに眉を顰めた。
「すんまへんな。わしとしては浜辺の砂一粒すらも大魔王様の作品やから、仕事でもない限り足蹴にしとうなくてのう。海賊船を利用しとるんやわ」
グランドタイタス号に比べれば随分と狭い室内だが、見事な水墨画や動物の角を使った彫刻、金銀の器などが飾られており、中にはモチーフにおどろおどろしい髑髏も散見される。
そんな室内とは真逆な明るく調子のよい口調の主はテーブルを挟んで座る魔物であり、キリンと龍の獣人といった風貌である。
彼は自らを大魔王配下のジョイフーと名乗った。
「お招きいただき感謝しますわ」
「シロイロを連れてたからピンと来たんや。バーウェンとはちょっとばかり縁があったからな」
ちらりとシロイロに視線を向けると、こくんと頷く。彼女の方にも覚えはあるようだ。
「ドラゴン。話してた」
「あー、そうやったなあ。最後におうた時はそんな話したんやったっけ。懐かしいのう。それでお弟子さんと、お友達がなんでこのレンダーシアをぶらついてたんや?」
リモニーザはこの男と師匠の繋がりには覚えがなく、何気ない発言に衝撃を受ける。
「ドラゴンの話というのは?」
「んー? 大魔王様が竜とその生命力に着目した時期があってなぁ。お役に立つかとあれこれ調べたんやが、その時にアストルティアのドラクロン山地に『理想の竜』ってのがおるちゅう話があったん。それ教えてあげただけやで」
些かも様子を変えることなく答えるジョイフー。
一方でそうですかと半ば呆然とするリモニーザの脳内ではその言葉が師匠をアストルティア…ひいては死地に向かわせたのだと幾度も反響する。
(きひひ。何も聞いてなかったんかいな? ほんならおんなじ手つかえるかもしれへんなぁ。理想の竜を追えば……おまえも必ず死ぬよってになぁ)
隠そうとしても隠しきれない驚愕に包まれた姿に、気安いいあっけらかんとしたジョイフーの表情の裏側が、いやらしく歪んで笑う。
「で、話戻すけどおたくらは結局なにしてたん?」
「それは……」
レンダーシアに冒険者が乗り込むことになって大魔王様のことが気がかりになったから来ちゃった。
のであるが、一魔族であるリモニーザが口にするのは、それはそれで不敬ではないかと今更に思い至る。
「イズナは興味本位だよ。リモリモは大魔王様が心配になったのとー、あとはさっきの話を聞いたからにはドラクロン山地にもいかないとって感じだよねぇ」
これまで室内を観察していたイズナは、まるで気にすることなく口を開く。
「はぁっ!? 大魔王様を心配!?」
目を見開き大きな声で驚愕したジョイフーは、んんっと咳払いする。
(なんと身の程知らずな! 害虫以下のゴミくずめ!)
腹の中でぐるぐると熱を帯びる怒りと殺意を抑え込むために間をとったのだ。
「それはまた大それた……。まあ、この場所にきたんやったら、それも杞憂とわかったんちゃうか?」
「はい。あらゆるものは大魔王様の手の中だったのですね」
頷くリモニーザに、ジョイフーは勝ち誇ったように笑う。
「そのとーりっ! このレンダーシアこそが大魔王様の作品。今はまだ二重世界やけど、完成の暁にはこちらこそが今を塗りつぶし真実本物の芸術作品として顕現するんや」
「んー本当に、大魔王様“は”すごいね。でジョイフーさんはここで何してるのぉ? イズナお名前聞いたことなくてぇ」
自らの手柄のように語り続けようとする言葉を制してイズナは訊ねる。
「んんっ。大魔王様の配下とはいえ魔元帥殿や、四魔将のような大物ってわけやないからなあ」
たははと笑って見せたジョイフーの姿にイズナもにやりと笑って見せる。
互いに探り合っていることは明白だったが、ジョイフーは続ける。
曰く自分は見張り役なのだと。この近辺の世界の動きを見ておく事、万が一魔瘴を越える者達があらば知らせる事などを任務とし、のんびりと過ごしていたと。
「まあ、今からはちょっとは仕事せんとあかんけどなあ。ゼルドラド様に伝令飛ばしたところやし」
「そのような時に…申し訳ありませんが先ほどの竜の話、詳しく聞かせてはいただけませんか」
溜息を付いたジョイフーにリモニーザは頭を下げる。
その瞳からは動揺が消え、未来を見据える力強さが表れていた。