DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈、公式との齟齬もあります。
1話は2019/6/23の日誌からです。
2014/06/14の日誌に簡単なキャラ出演まとめもあります。
◆◆59話 観光地でダンジョン◆◆
勢いよく開けられたエルトナ式の木製の引き戸が柱にぶつかってガツンと行儀の悪い音を立てる。
さらに常識を投げ捨てたの如く土足が畳を踏みにじる。
「ああ、もうやっぱりぃ!!」
とんだ無礼者がいたものだとあきれ果てられても仕方ないその男、スウィ~トは目前に広がる姿に絶叫する。
「こんどはニードルマン…九体」
先ほどから引き抜いたままの二刀をハの字に構えて、アイシスは素早く視線を巡らす。
高級旅館の広間かと思うほどの空間は、どう考えても自分達のいた建物内部に収まらないはずだ。
「リモニーザ達が…何か仕掛けた?」
「いやいや、あのクロウズとかいうのも怪しいんじゃないこれぇ」
遠くに見えたとげとげの人形モンスターが呪文で加速して突撃してくる。
ギラリと光るニードルが本能的恐怖を煽るさまに、スウィ~ト達の表情も険しくなる。
「とりあえず考えるのはあとか! えーい!」
ドスンと畳にビックチョコスティック(鎌)の石突を叩きつけて精神を集中する。
「シアさん直伝! 開け早詠みの陣!!からの~バギクロス」
集団突撃のど真ん中に暴風呪文を叩き込み気勢を削ぐとアイシスとざらめが飛び込んでいく。
「足元。刈り取る、よ」
オーガのアイシスから見るとかなり背の低い魔物を超低空で薙ぎ払い、ギリギリの距離で踏みとどまった一匹を左の刃で刺し貫く。
その隙を狙おうと器用に跳ねあがった一匹の顔面、ボタンのまなこの真ん前で突如扇がすぱんと開き衝突。
バランスを崩してべしょんと畳に落ちたところを、ざらめが操る氷砂糖(クリスタル)で打ち据える。
旅路の中で実力を高め、連携を深めてきた二人と一匹はそのまま危なげなく一匹ずつ撃破していく。
(それにしてもここで3部屋目……完全に異空間のダンジョンとしか思えない。けどいったい何があったんだよこれぇ)
ほんの少し前までスウィ~ト達は、なんてことはない田舎の名所であるシノバス生家でのんびりとしていたのだ。
幼少期のエピソードが張り出されたり、彼の作品の習作やレプリカが飾られていたり、エルトナでの活躍後、故郷に錦を飾って晩年は多くの弟子達を持った事など、立派な村の名士を盛んに称えて誇っている。
とはいえ小さな屋敷を利用したもの。興味深く見たとしてもそう時間はかからない。
「あれが最後かな?」
出口の手前に設置された展示はどうやら実際にシノバスが使っていたという道具類のようで、木工に使う刃や木づちなど、こまごまとしたものが並んでいる。
あ……のち…に……。
「? なんか言ったアイシス?」
不意にぞわぞわっとした声が聞こえた気がして振り返るも、ざらめを抱きかかえたアイシスはふるふると首を横に振る。
びゅうっと突然に出口から生暖かい風が吹きつけると、展示物の中から一本の木づちがふわりと浮き上がったのが目に入った。
「なっ!? なんだーっ!!」
最近の観光地は田舎といえど侮れないのか!?
これほどのびっくりアトラクションを仕掛けてくるなんて!?
思わず思考がポジティブ力を発揮するが、生存本能がそんなわけがないと警鐘を大音量で鳴り響かせる。
「アイシス、ざらめ警戒をっ!」
だが時すでに遅し。
木づちからは閃光が放たれ視界が真っ白に染め上げられる。
『あいつのぉ血の匂いぃぃぃ!!』
怨念のこもった絶叫だけが耳をつんざき、体がグイっと何かに引っ張られる感覚に、心臓が凍り付きそうになる。
「ボクはチョコの匂いの方がいいいいいいぃっ!!」
弱りそうな心を鼓舞するようにスウィ~トは叫ぶ。
「そういう話、ちがーう!」
ららーっ!!
アイシス達も自らを鼓舞したかったのか、それとも純粋にツッコんだのか……。
それぞれの叫びを残して、彼らの姿はその場から消えていた。
「うん……どう思い出しても観光地で異空間ダンジョンに放り込まれるっておかしいわー」
「しかも、部屋を開ける度にモンスター。困った」
すべての敵を打ち倒して、お土産に買ったよくある饅頭(音符の焼き印付き)で一息入れながら、スティ―ト達はため息を吐くのだった。