DQX及び蒼天のソウラの二次創作
◆◆66話 魔族の立つ位置◆◆
なぜだ!?
こんな理不尽な事が!!
おまえはこちら側なのに!
魔であり! 人の倫理に縛られず! 創るものであるはずなのに!!
『アストルティアの民の側に立っているんだよぉぉ!』
血走った眼でシノバスが絶叫する。
「私の利害を優先しただけよ。あなたの求める前提こそ…アストルティアの民的ね」
血まみれの手、ブラッドハンドが波涛のように押し寄せるのをリモニーザとシロイロの刃が、領地を切り取るように跳ね飛ばす。
『このおぉぉ!』
ならばと後方に控えるスウィ~トの直上、毒々しいキノコを纏った黄色のスライムが天井に染み出し、胞子と爆弾キノコを振り散らす。
「しっかり休んだボクを甘く見過ぎだよ!」
魔法の力も、判断力も体力も取り戻したスウィ~トは風の呪文を開放してそれらを吹き飛ばすと、間髪入れずにアイシスがざらめを投擲。
ららっ!!
天井のスライムに肉薄したざらめは器用に扇を操り、舞うように斬撃を繰り出す。
べちょん。
たまらず落下したスライムをアイシスの炎を纏った剣が薙ぎ払い、着地したざらめとスウィ~トはリモニーザ達のフォローに取り掛かる。
ここ数回の襲撃は簡単に退けられており、シノバスの顔は人の物からかけ離れた怒りに染め上げられている。
「どうしても恨みを晴らしたいなら、全部をかけて来るしかないよ!」
またも姿を消そうとするシノバスの背にスウィ~トは、ことさら元気よく溌溂と声をかける。
相手を最後の勝負へと引きずり出すための、内心の不安を隠しながら。
時は少し遡る。
片腕を失ったオノレフは、息も絶え絶えに主の元へと帰還していた。
「リモニーザ達の最後を見届けることなく帰還したこと、面目ございません」
最低限の処置をされた腕の根元がぐずぐずと痛みを訴えかけるのか、眉間に皺よ寄せて膝をつく部下の姿にジョイフーは無感情な瞳を向ける。
「まあ……魔族とはいえ脱出でけへんままやったら、そのうちくたばるんやろうけど、なぁ……」
すっきりせへねんなあと腕を組む。
とはいえ今一度件の迷宮へ刺客を送り込むのも効率が悪い。
ここはしばらく様子見するとして……。
「イズナはん…やなぁ」
あれからのんびりと羽を伸ばしている風の魔族の名を口にする。
特別な恨みはないが、そろそろ消えてもらわなければ都合が悪い。
「油断してる素振りだけやろうけど、こっちの掌の中におるうちに一人で死んでもらわななぁ」
立ち上がり己が武器の毛筆の形を模した棍に手を伸ばす。
「ごっめ~ん♪ もう一人じゃないんだよねぇ」
突然船長室のドアが勢いよく開かれると、にこやかに笑っているのはイズナ本人だ。
だが、その傍らには妖艶なウェディが立ち並び、その背後にはドードーどりの巨体が控えている。
「いやー、ちょっとケケちゃん巻き込もうとしたら、マッシュっちも居たから呼んじゃった。てへ」
可愛く舌を出すイズナにやれやれと息を吐くのはケケと呼ばれたウェディだった。
「な、どうやってここに!?」
驚愕するオノレフにジョイフーが苦々し気に呟く。
「転移術か…そこまでの使いてやったとはなぁ」
「大変だったよぉ。陣を描くのに秘蔵の品もいくつか使っちゃった♪ 魔瘴の隔絶も残ってるから、自分自身でここまで来てなきゃさすがに繋げられなかったかなぁ♪」
自室の床いっぱいに書き込んだ魔方陣の制作に使ったのは化粧品などに擬態しておいた貴重な品々だ。
あとでリモニーザに総額を付きつけたら面白い反応を期待できるかもしれないとイズナは笑みを漏らす。
「そんなことはどうでもいいど! リモニーザお嬢様はどこだどー!!」
対照的に頭から湯気を噴出しそうなのは後方のマッシュウだ。
怒声と共にすごむと、ジョイフー達も殺意を漲らせる。
「大魔王様の配下に手を出そうやなんて愚かもんやなぁ!」
ジョイフーが虎の威を借るように吠えるのケケは涼しい顔で受け流す。
「先に手を出したのはそちら。それに…ジョイフーさんは評判よろしくないわねぇ。芸術家として大魔王様に心折られた方々は多いけれど、狂信して負けても仕方ないなんて態度見透かされるものよ?」
「わーケケちゃん、容赦なーい」
「え、そもそもジョイフー周りの情報集めてって言ったのイズナちゃんよね? 結構あちこちの伝手使って苦労したのよぉ?」
ちょっぴり恨みがましい目で見られてイズナはごめ~んと謝る。
ケケのおかげで事を構えても問題ないだけの裏をとれたのはマジ感謝だ。
「ぬぅ貴様らぁ。打ち潰してやらぁ!」
「こっちの台詞だどー!!」
魔族と魔族の戦いはリモニーザのあずかり知らぬところで口火を切ったのだった。