DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
設定や人物に独自解釈や表現がありますのでご注意を~。
ちなみに1話は2019/06/23の日誌ですよ。
◆◆69話 シノバスブラックチャック、略して…◆◆
「もうこれホラーハウスものじゃないよね! 進撃の大怪獣かなにかだよー!!」
めくれ上がった畳、破砕されてささくれ立った床板、天井の梁は折れ曲がり落下して大昔そうであったろう如く林立する。
幾つもの襖で仕切られた無限大広間とも呼べそうな立派だった空間は、もはや破壊の密林地帯と化していた。
その危険地区の主こそがシノバスの変じた魔物だった。
天井すれすれまで巨大化したシノチャック(命名:スウィ~トスター☆)が上段に巨大な木づちを振り上げる度に天が、振り下ろすたびに地が、破壊の悲鳴を響かせるのだ。
ずどんっとまた重苦しい音。
重撃を躱したアイシスが飛び散る破片に傷つけられながら、まっすぐに悪路を駆ける。
妖精の加護を受けた靴は彼女の足運びを盤石のものとしていた。
「せぇっ!!」
駆け抜けざまに右、反転、左、反転、再び右。
旋風の如き三連斬で短い脚を切り裂くがシノチャックは意に介さない。
「反応…鈍すぎる。お飾りかも?」
手ごたえも加味してアイシスは視線を上げる。本来のブラックチャックなら小さくてつぶらな黒い瞳は、煮えたぎる溶岩のように赤く燃えている。
「狙うならあそこ……かも」
切先を向けて告げるとシロイロが頷く。
今度は真横に構えたハンマーをフルスイングで薙ぎ払うのを、足先から滑り込んでやり過ごしたシロイロの連刃が眉間めがけて伸ばされる。
ぶっふーーーっ!!
しかしシノチャックはそれを一吹きで押し返してしまう。
「接地地点、距離、猶予過多です」
「え、なに?」
「下からじゃ有効打にならないって言いたいっぽいっ!」
回復呪文をアイシスにかけながらスウィ~トは翻訳してみる。
「確かにでかぶつに対峙するなら、顔や目を狙うのは王道だよね」
再び前衛の二人が気を引いてくれている間にスウィ~トは久々の扇を手にしてイメージを思い描くと、それを現実へと解き放つ。
力を得た蝶の幻影達は優雅に、しかし狙いを違えることなく敵の眼前で弾けて衝撃へと変じる。
『ぐぬぅ!』
「扇の大技、アゲハ乱舞大成功!」
苦痛を漏らした事に手ごたえを感じたスウィ~トだが、シノチャックはさらなる怒りを募らせる。
『このカビ団子がぁぁ!!』
青筋を立てたかと思うと、ぐぐぅっと短い腕がまた一回り肥大化するとハンマーを担ぐように構える。
誰もが危険を察知した。
シロイロの連刃が腕に巻き付く。
アイシスが予測軌道に割り込もうと駆ける。
だがシロイロは宙を舞った。そのスイングで。
だがアイシスは阻まれた。その踏み込みで。
スウィ~トの景色をハンマーの黒い平面が埋め尽くしていく中、必死に手を伸ばしたチョコバー(鎌)を構える。
身の守りを固め敵の命を啜るための恐るべき構えは出会いによって得たものだ。
衝撃と同時にすべての音が消える。
いや。ただ一つ聞こえたのはキンキンに冷やした板チョコを割ったようなすっぱりとした音。
妖精の国で贈られた鎌が折れ曲がり吹き飛んだ音。
血の味が広がる。平衡感覚がない。
風に吹かれたタンブルウィードとなったドワーフは長々と血の跡を引いて止まる。
「おいおい、あかんやん! もっとおまえらが頑張らんとぉ。そいつが先に死んだらダンジョンごと消えちゃうやろ~」
リモニーザと打ち合いながらジョイフーがその姿に歪んだ笑みを見せる。
「それを望んでいるのか貴様はっ」
「さぁなぁ。とにもかくにも……おまえの顔に焦りと苦悶が見えてるのは、超嬉しいなぁ!」
泡を飛ばして叫ぶジョイフーの目にもいつの間にか赤黒い濁りが浮かび明滅している。
もはや恨みと怨みが混ざり合い二つでありながら、それらは一つとなり始めている。
その様はカタチを失いリモニーザの一族に延々と纏わりつく怨霊と等しかった。
「コープスフライ達のようにねじ伏せてやります」
そうやって使役してきたのだという自負に賭けて、リモニーザが魔族の笑みを浮かべる。
だから……そちらはそちらで何とかしてみせなさいよ。
その裏で祈るように、仲間(パーティーメンバー)を信じながら。