DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
※このお話は以前に途中まで投稿したものの改訂版となります。
◆◆◆はじまり(1)◆◆◆
一週間前――
「待つのであ~~る。勝手に持って行ってはだめなのであ~~る」
「ごめんね。アナタとの逢瀬は楽しかった。本当よ」
名残惜しそうに彼女は呟く。
泥だらけになって無縁仏を掘り起こしたのも、古の合戦跡で見事なオーガの骨を見つけたのも、特別な薬品を使った火葬の資料を見つけた時も……。
ここ数日、共通の専門知識を持った相手と夜毎に語り合った瞬間は色あせずその胸に刻まれている。
自らの力を磨くために四苦八苦していた中での偶然の出会い。
その運命に深く深く感謝する。
感謝はする……のだけれども!
突如舞い込んだ一報は、あの人の危機。ならば手段を選ばす救いに行くのは必定。
「ごめん! アタシ、絶対に彼を助けなきゃダメなの! そのためにこの研究資料……貸してもらうから!!」
アタシの一番はたった一人。絶対不変の純愛ロード。
「困るのであ~る! こんな事知られたらエストリスに怒られるのであ~るぅぅぅ」
心底困惑した声が響くのを背に彼女はキメラの翼を高く高く掲げたのだった。
「分かっているのか」
冷たくすら感じる白磁の肌が、整った顔立ちをより人外めいて魅せる。。
切りそろえられた前髪と対比するように左右の上下でくるりと巻かれた黄金の髪。
その顔を強調するような大きな襟の着物には艶と高貴さが表れている。
奇妙でありながら美を感じさせるその姿は近寄りがたさを与えるほど。
だが、エストリスの表情は意外なほど豊かだ。
「君の死霊術呪文の研究は僕たちの研究の一部でもあるんだぞ。それを持ち逃げされたなんて」
親指と人差し指で額を挟むその姿には、どこか中間管理職めいた悲哀が見える。
「ほ、本当にヤバいものは取られてはいないのであるぞ」
エストリスに比べればはるかに長身の髭オヤジであるゾフィーヌは、何とか取り繕おうと必死であるが、奪取されたものを完全に放置出来るはずもない。
「ただでさえ忙しいっていうのに」
それでも何か手を打たねばとエストリスは踵を返した。
二週間前――
大鎌を振り回していた青白い悪魔が、途端羽を広げて飛び上がると反転して彼方へと逃げていく。
「むう!? 逃がすと思うニャ!」
「よい。深追いをするなリベリオ」
「しかしマンマー様、これ程の襲撃。ただ事じゃないニャ」
確かにそれはリベリオの言う通りだった。猫の魔物が暮らすこの猫島は危ういバランスの上にある。
アストルティアの五種族の一つウェディは猫の魔物を大きく恐れ小競り合いは常日頃の事。
また今はこの島を守るため尽力した巨猫族の剣士リベリオも、かつては実権を握ろうと謀を進めた事実があった。
そのように内外に問題を抱える猫島だが、今回は様子が違う。
巨猫族の女王キャット・マンマーは悪魔のような風貌のモンスターが多い事からも、何か別の意図を感じていたのだ。
数刻の後、その予感は的中する。敵の退却は目的を果たしたゆえの事だった。
「申し訳ありませんマンマー様。やはり御客人の姿を見た者はおりませぬ」
報告にマンマーは深く溜息を付く。
客人の名はリュナン。秘儀を受け継ぐとされる正統ねこまどうの彼は、修行のためにこの地に逗留していた。
敵の狙いは彼の身柄だったというわけだ。
「このままにはしておけぬな」
猫魔物の島の女王の威信にかけて、マンマーは厳かに言うのだった。