DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動についても私の妄想であり公認ではありません。
◆◆◆それぞれ(2)◆◆◆
要素だけを抜き出して書き並べれば、彼は狂人と言って差し支えないだろう。
いくつかの身の上の不幸と、それを補う環境に育ち。
礼儀と品格を身に着け、心優しく音楽を愛し、また秀でた。
オーガとして人並みの武を嗜み、それをまた戒めた。
一角の紳士や音楽家になるであろう男は、その繊細さと音に対する超絶的な感覚ゆえに、運命に出会ってしまった。
それは――魔族であった。
異国の人形を思わせる寒気を伴う様な美しさ。
所作の、吐息の、歩みの立てる魅惑の音色。
ほんの一瞬垣間見たその刹那から魂の中心に突き刺さり、その者の全てが幼き男の目を耳を魅了してしまった。
幾年月が流れようと消えぬほどに。
そして幼子が生気溢れる青年となった頃、運命は再び交わり、奇妙に絡み合った。
始末の悪い事に魔族にはその自覚はなかった。悪魔が幼子を企てをもって誑かしたのではなかったのだ。
アストルティアの民を見下すその魔族が、彼を受け入れたのはそれゆえだったのかもしれない。
いずれにせよ彼はその時から魔族の、いやたった一人の存在の側に立つ者となったのだ。
「ふぅん。もしかして不服なのかい?」
その魔族、エストリスがからかうように尋ねると男、ミカゴロウは滅相もないと畏まった。
「言っておくけれどこの僕が気を使ってあげたんだよ? 僕の元を離れての任務なんて嫌がるだろうとわざわざ手駒を見繕ってあげたわけだ。なあi-system参号」
従者の否定を無視してエストリスは、傍らに立つメタリックブルーの鎧に身を固めた女性に語りかける。
もっともその口元は目元まで金属の面に覆われ、肝心の両眼部分もキラーマシンのカメラを模したアイマスクで隠されている。
いや、それこそが彼女の素顔なのかもしれない。先ほどの話では彼女こそが魔工技師プラクゥが作り上げた学習型キラーマシンの一体なのだ。
「インプリンティングシステム搭載型キラーマシン参号機。通称アイシス参号です。親鳥(マスター)の登録をお願いします」
微動だにしないまま彼女は抑揚のない声で名乗る。
無機質な音だった。嫌悪は感じないが、逆に何も残らず通り過ぎるそんな音だ。
そしてどんな音を奏でようと、彼女を使えるように育て、主の望む結果を出す事はすでに決定事項である。
だがそんな理性的な思考に基づいた行動は今のミカゴロウには厳しかった。
エストリス様が自分の気持ちを慮ってくれた事。信頼して仕事を任せてくれた事。ご友人達に接するようにからかい、ふざけた言いようを使った事。
全てが彼にとっての幸福であったからだ。
畏まったまましばしの間が過ぎた事にエストリスが首を傾げようとした頃、ミカゴロウはすくりと立ち上がる。
そして普段はサングラスで隠している優し気な瞳を晒して、その喜びの輝きを示しながら任務を請け負う。
「エストリス様のお心遣いに必ず応えてみせましょう。私にお任せください」
「じゃあ、あとは任せたよ。奪還する物についてはゾフィーヌに聞いておいてくれ」
立ち上がったミカゴロウの顔をむふんと見上げて、エストリスは満足すると自室へと踵を返す。
「さて……親鳥か。このオレがな」
呟いてアイシス参号に視線を向けると、彼女は直立不動のままだった。
エストリス様に全てを捧げる事を決めた自分が、まさか仮初とは言え親になるとは夢のまた夢であったが、やるべき事はやらねばならぬ。
「このミカゴロウが貴方の親鳥という事になる。分かるか」
幾分か優しく声をかけると彼女の赤いカメラアイがピカリと光ってミカゴロウを捉えた。
「ミカゴロウマスターを登録。学習を開始します。……命令権限を製作者及びマスターの兼任モードで再起動…………完了」
一瞬ぎくしゃくと身体を動かしたかと思うと、姿勢を正したアイシス参号は頭を下げる。
「よろしく、おねがいします。マスター」
はてさて何から教えたものか。
思案を巡らせながらも、まずはゾフィーヌの部屋へと足を向けるミカゴロウと、そのあとをテクテクとついていくアイシス参号なのであった。