二次創作です。独自解釈、設定の齟齬、改変を含むも妄想ですのでご注意ください。
◆◆それぞれ(5)◆◆
少女の歩幅に合わせて後ろに続くホロナは質素倹約を旨としたようなシンプルな白い衣装。
飾り気があるのは僧侶である事を示す印の刻まれた縦長の司祭帽子と、髪の色に合わせた深い緑色のリボンベルトをゆるりと右側に流しているくらいだ。
もっともそこは冒険者であり、回復魔法の補助となるスティックや、まん丸の盾を身に着けている。
そんな頼りになるお姉さんの雰囲気を纏ってソーミャに案内に任せる。
角を曲がり、階段を上り、アーチを潜り、やがて門を抜ける。
町が近いとはいえ、外に出ればモンスターと出会う可能性がある。
少し待って。何処まで行くの?危険ですよ。
口に出す言葉を逡巡する間に、少女は大きな岩の影に曲がってしまった。
ああ、いけないとホロナも足を速める。
どん。もふぅ……。
柔らかくて暖かいものに顔からぶつかってしまった。
感触に名残惜しさを感じながらも、二歩下がって帽子の位置を整える。
「わー……大きいですねぇ」
止まった思考がどストレートな言葉を口から漏らしていく。
いや、口から以外に言葉が漏れたらそれは怖い。
違う違うそうでもない。
見上げると眼帯と傷跡が厳めしい巨大な猫の顔が、鋭い目つきで見降ろしている。
鋲打ちのベルトで背負っているのは馬をも斬りそうな巨大な剣。
思わず視線を足元へとそらすと、一匹のプリズニャンが逆にこちらを見上げている。
いたいけな少女に誘われて着いていったら強面(注:モンスター)が待ち構えていた。
この状況は……たしか、そう。
「美人局というやつでしょうか」
ホロナが呆然と口にした言葉に、ソーミャはキョトンと首をかしげた。
「ほう。美人局」
麦わら帽子にサングラス、アロハシャツと海沿いの町を満喫するための完璧なドレスコードを遵守した男が不意に呟いた。
「いきなりどうしたんだ司令殿」
「休日なんだ。ロスでいいと言っただろ。いや、向こうの岩陰から聞こえてきたんだが。ワクワクする響きだろう?」
ロスと呼ばれた男は声を潜めながらも、十代前半の思春期男子の如くにやけている。
「それはまた……青少年の心を忘れてないねぇ」
幾つになっても少年の心を持っていて素敵ね。と美女になら言ってもらいたい台詞で応じる連れの男。
こちらも襟元を涼しげに開けたポロシャツで、日差しにうっすらと輝く汗が健康的だ。
ふ。さすがその名の通りに男の夢(※実際にやられると悪夢の類である)に理解がある。
とサムズアップするのは休日の司令官、ロスウィード。
すかさずハンドサインで風下から近づくことを提案するのが休日の大棟梁、ロマン。
男達は野次馬根性を全力で発揮していた。
「こいつ大丈夫ニャのか? 弱っちそうだニャ」
思考停止寸前のホロナを鋭い爪で指さすリベリオにもうっとソーミャが怒りを見せる。
「ホロナさんは僧侶なんだよ。僧侶は仲間のみんなを癒すとっても大事な役割で、沢山の冒険者にも信頼されてるんだから」
一匹狼気質の冒険者であるヒューザですら、そのように僧侶を語った事があったのをソーミャは覚えている。
「つまりこの人を連れていけば、他の冒険者もひょいひょい掴まえられるって事でヤンスね!」
「そうニャのか! それはお手柄なのニャ!!」
言い回しが不穏ではあるが、ソーミャの考えもだいたい同じである。
話を聞いてくれた様子からも心根の優しいお姉さんだと感じていた。
「え。結構大事件です!? 私を餌に次々と冒険者を攫うとか……人の道にもとりますよソーミャちゃん」
とりあえず全員が普通に会話している事実にはたと気づき、ホロナが大慌てで少女の手を取り説得をしようとしたその時。
「その通り! 年端もいなないお嬢さん達を攫おうとは不届き千万」
「聞いてしまったからには放ってはおけないのが男ってもんだ!」
「何奴ニャ!!!」
太陽を背に逆光の男が二人。岩の上に立っていた。
落ちる影には手にした細長いシルエット。すわレイピア(細身剣)か槍を構えた冒険者か!?
「いや、本当に何者でヤンスか……」
見上げたミャルジは素面で思わずツッコむ。二人が手にしていたのは釣りざおであった。
「うん、やっぱり事件性は少なそうだ」
「いやあ、見事な『何奴ニャ!』だったな。邪魔して悪いね。俺はロマンってもんだ」
モンスターと女の子達の組み合わせ。休日とはいえ万が一の事があればと首を突っ込んだ二人は、この僅かなやり取りで肩の力を抜いていた。
「今度はいったいなんなんですか~」
次々に起こるイベントにホロナの叫びが青空に吸い込まれていった。