DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動についても私の妄想であり公認ではありません。
◆◆プロの戦い?◆◆
「気をつけろフルちん!」
「合議の結果その愛称は無しになったはずぞなもし!!」
「しまったつい。悪いフルっち。って、このコースはやばい! ていやっ」
アズランの山間、ひっそりと隠れるような古びた民家の窓から飛来する呪炎呪文に指向性の爆薬を投げつけてマージンは、あえて射線を横切って走る。
「なんでトラップの反対側に走り出したのアイツ!!」
呪炎呪文ソウゲンビを相殺したのみならず予想外の方向に走る男にカロリーンヌが文句を言うと、フツキは至って平然と答える。
「何度も組んでいるからな。互いに手の内はある程度読める」
「は、なに!? アナタのお仲間なのあれ! じゃあ説得してよ」
「……」
「なんで無言なのよ」
少しばかり惜しいと思ってしまったからだ。互いの力を互いに示すこの機会を。
そして常日頃、彼の奇行によって被っている多くの苦労を、少々お返しできるこのチャンスを。
フツキにとってマージンは相棒であり、そして頭痛の種でもあった。
「ふっ」
思わず笑みが漏れる。
千載一遇のチャンス。はっちゃけてもいいんじゃないか?と囁く己の中の悪魔が今はむしろ愛おしい。
「ちょっとー。何か答えなさいよっ!」
「作戦続行。あっちの爆弾使いには力の限り撃ち込んで……よし」
「他の冒険者に恨まれて始末されるとか勘弁ですけど本当にそれでいいのにゃ!?」
「あいつだけは特別扱いだ」
戦いと一応の和解、どちらにおいてもあれほど冷静であったフツキにこれほどまで言われるマージン。
きっと何だかヤバいやつなのだと刷り込まれて、カロリーンヌの呪文に本気の殺気が混じり始める。
「ちょ、火力上がってる!? フッキ―なんで煽ってんの!? いるんだろー」
鼻先をかすめた怪火に焦るマージンの声が響いてくるがフツキは外を見もしなかった。
「ドワーフの遺体。ベンガルクーン。冒険者への攻撃を容認する発言。言い訳できない状況ぞなもし」
その視線を独り占めしていたのはフルートだ。
この状況でただ一人、寸分の緩みも見せなかった暗殺者はすでに屋内へと侵入していた。
「そうだな。ならどうして一度立ち止まる?」
どのような動きにも対応できる自然体に近い構えのエージェント。
それに仕掛けるのが容易ではなかっただろうが、不意を打つチャンスを手放して言葉を掛ける意味はない。
互いのプロの視線がまっすぐにぶつかりブーメランとナイフ、互いが手にした得物が怪火の赤にちらちらと光る。
「遺体の扱いぞな」
答えたのはフルートだった。
簡素ではあるがこの部屋唯一のベッドに安置された姿にはドワーフへの敬意が見て取れる。
だからこそマージンの既知であるというフツキの行動を訝しんだのだ。
「話が早そうだ。悪ふざけはここまでか」
ほんのちょっとだけ残念そうに呟いてカロリーンヌを制止しようとした矢先。
「いい加減こっちだってマジで反撃するからなーっ! 退避、し・ろ・よー!!」
「あのバカッ!?」
「己はご遺体を」
「カロリーンヌこっちだ!」
ぽちっとな。
マージンの握った小さなボタンが押し込まれるのと、フツキとフルートがそれぞれの目標を確保して民家を飛び出したのは同時であった。
どおぉぉぉん!!!
いつの間仕掛けられたのか。
怪火を避けて走り回っていたマージンの爆薬はフツキの隠れ家をあっさりと吹き飛ばしたのであった。
「いやぁぁぁぁー」
炎と熱がしっぽの毛先をちりりと焦がしてカロリーンヌが悲鳴を上げる。
絶叫、轟音、熱……。
呪符によって縛られたドワーフの身体と意識が、フルートの背でぴくりと覚醒する。
忘れられない、その魂に刻まれた戦いの日々。そしてその結末。
偽りの太陽が全てを燃やして滾らせた。生も死も。情けも恨みも。
ああ、そうだった。シャクラもそうだったよな。
表に出せずとも、妥協と計算の末だとしても、より良い、より美しい結末のために動いていたっけ。
「まあ、バトル馬鹿の私欲もあったんだろうけど」
ぽつりとつぶやいて、小さく笑う。
鮮明によみがえっていく己の記憶にドワーフは、ワッサンはその目を開いたのだった。