蒼天のソウラを含む二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動は私の妄想であり公認ではありません。
◆◆膝突合せて◆◆
「うむ。噂にたがわぬ爆薬使い。死人の目すら覚ますとは驚きぞな」
安全地帯に逃れたフルートはそっとドワーフの身体を横たえる。
「あーもう。やっと顔出したかフッキ―! これで話が出来るなっ」
一方、もうもうと上がる煙の向こうからマージンが足取りも軽くやって来て、カロリーンヌの手を引くフツキに笑いかける。
「ちょっと、なにその軽いノリ! 狂人にゃの!?」
「いや、思いっきり攻撃呪文を撃ってた魔物に言われても困るんだが」
ひと悶着しそうな二人の間に入ってフツキが制止する。
なお自分が煽った事には特に言及しない。これがプロのの賢さというやつである!
「詳しくは彼も入れて話そう」
示されてフルートたちの方を見たカロリーンヌは絶句する。
「やあ、このお札を外してくれると助かるんだけど」
フルートに背を支えられて半身を起こしたドワーフが、緩慢な動きで右手を上げていたのだ。
「え、えぇ……。完全に制御したはずなのに自分から喋れるの!?」
「まあ、色々冒険した人生だったからね。敵にも味方にも規格外が多かった。こういう物への抗い方も多少は身にいてしまう」
そんな馬鹿なと顎を落とさんばかりの猫死霊術師にフツキが呪符の解除を促す。
「これでようやく、本気で今後を検討できる。初顔合わせでは失礼したドワーフ殿。フツキだ」
「あ、どうも初めまして。冒険者のマージンです。こっちは今組んでるフルっちね」
「フルートぞなもし」
「……知ってると思うけどカロリーンヌよ」
体の自由を取り戻したドワーフは両膝を折って大地に座ると、一度頭を下げて皆の名乗りに応じた。
「僕はワッサンと言うものだ。今がどのような時代かは知らないが、レイダメテスの災厄の時代を生きていたといえば通じるだろうか」
「あ、やっぱり。仕事で裏取りしたの間違ってなかったな」
「墓荒らし事件扱いになっているから、ワッサン氏の子孫が提供した資料もあるぞな」
どこから取り出したのかぱらりと紙を広げるフルートに、ワッサンは目を丸くする。
彼の生きた時代からおよそ五百年あまり。その末裔はドワーフ族による舞踊の一派として今日まで続いているという。
「記憶を取り戻してすぐさまそのような事を知れるとは、奇妙な縁だなぁ」
在りし日の妻子を思い浮かべて懐かしく目を細めると、ワッサンは話を戻す。
「ある魔王の軍勢と戦った僕だけど、その結末には未練もあった。様々な事を思い出せばフツキ殿の言うように知る事を疎かにするべきではないとも思い直したよ。あなた達の話を聞きたい」
「フツキで構いませんよ。ではまずは彼女の事情からですね」
この場でただ一人の魔物に皆の視線が集まると、カロリーンヌは圧に押されるように、改めて全てがリュナンを救うためである事を語るのだった。
「なるほど。フッキ―ってば人情派じゃん」
「勘も馬鹿には出来ない。本当にそうぞな」
それぞれの事情を語り終えてバンと背中を叩くマージンに、納得顔ぽい雰囲気をマスクの内から漂わすフルート。
「相変わらず動きがうるさいな、落ち着け」
続けて叩こうとする相方の手を器用にあしらうフツキの姿に場の空気も緩んでいく。
「それでその……アンタに一つ謝るわ」
あえてその空気に反して居住まいを正すとカロリーンヌは頭を下げた。自らが呼び起こした亡骸に。
大昔の人間だとしても、それを誇り大切に思う血につながった者達がいる。
自分がリュナンを思うようにそれは大事な気持ちなのだ。
死霊術を扱ううちに、自分の望みに焦るうちに、無くしていた事実に気づいた。
「わかった。許そう。なんというか……こうも素直にコミュニケーションを取れるのもなんだかなあ」
顔を上げたカロリーンヌの瞳に頬を掻く困惑顔のドワーフが映る。
「魔物と人の距離感が違いすぎて戸惑うんだが。これが時代の差なのか」
「今でも命のやり取りや、多くの憎しみや恐怖がありますが」
「それだけじゃないのは確かぞなもし」
漠然とした、だが確実に存在する違いに翻弄されつつワッサンは心を決める。
それを知るためにも、この不浄の身体を拒絶する事をやめて彼女と共に、冒険(クエスト)に今一度挑む事を。