蒼天のソウラを含む二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動は私の妄想であり公認ではありません。
◆◆乱入者◆◆
奇妙な女だった。
膝裏まで伸びた長い髪は深い秋を思わせるオレンジ色。
大きな瞳には知性と哀惜にも似た深さがあった。
赤と緑を組み合わせたマント付きの奇抜な装いは見た事もない。
「本当に……人間なの?」
思わずフツキと距離を取ったシグナルも自らの感覚を疑うほどにそれは異質。
中空にいきなり現れた女性はとんと真ん中に降り立つと口を開く。
「いやー。タイミング的にひやひやしたー」
額の汗をぬぐうような仕草をして朗らかに宣言すると、ぐるりと皆を見回す。
「けどだれも死んでなかったからよし、ね!」
「新たな障害なら排除します」
「あ、待ってアイシスさんっ」
動き出そうとしたアイシス参号に謎の女が手の平を向けると、その動きが止まりふらふらと四脚が足踏みをする。
(マシン系モンスターにメダパニを通したのか?)
変形機構と攻撃内容からキラーマシンの系列と判断した敵対者に、謎の女は生物の精神に働きかけて困惑させる魔法を用いて動きを制した。
フツキが訝しむのも無理はない。もちろんシグナルやワッサンも同様で、誰もが容易に動けない。
「そりゃー戸惑うよね。えっと、あたしの目的は今回の戦いはここまで、解散!ってことだよ」
「それはこっちに利が無さ過ぎです」
むうと頬を膨らませたシグナルだが、実際のところ手詰まりだ。
ならばとあちらの味方をされたならば勝ち筋が見えない。
「こっちの勝手なのは分かってるんだ。でもあたしもお兄ちゃんのためには退けないんだよ」
快活な少女の顔にはこの場にいる誰にも負けぬほどの決意が見える。
「さっきの言い方だと、こっちが止めを刺すのも無しなのよね」
そうだよときっぱりと断言されてカロリーンヌは猫髭を下げる。
「助けられた身としては是非もなしか。あなたの要求を呑もう……ええっと」
扇を畳んだワッサンが言い淀むと不思議な乱入者は自らを彷徨える錬金術師だと語る。
「そんな感じでよろしくね」
錬金術師はシグナル達に向き直ってきっぱりと告げる。
「その顔。覚えました」
金属音を立てて再び鎧の冒険者姿に戻ったアイシス参号の抑揚のない声。
その背にそっと手を添えてシグナルはこの場を離れるようにと促す。
いずれまた必ずと固く誓って。
「それで……兄のために戦いを止めに来たそうだが、どういう事だろうか」
襲撃者の気配が完全に消えたのを見届けて、フツキは真っ先に問う。
ワッサンとカロリーンヌも慌てて彼女に駆け寄ると、錬金術師ははあははーっと困ったように笑った。
「あはー。まあ質問攻めになるよね。でもごめん。今は言えないし時間もないの」
両手を合わせて拝むように謝る錬金術師。その体に不可思議な力が渦巻いていく。
「なにこれ? 魔力とも違う!?」
「今日はここまでが精いっぱい。だからまた会いましょう」
驚くカロリーンヌに一瞬だけ悲し気な瞳を見せた錬金術師の姿が突如掻き消える。
さすがのフツキもワッサンも言葉を失って、先ほどまで確かに人がいた筈の虚空を見つめるしかなかったのだった。