蒼天のソウラを含む二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動は私の妄想であり公認ではありません。
◆◆動き出す◆◆
「リュナン。おまえはなかなかの強情者だな」
鉄格子を挟んで自らを見下ろす巨大な魔物ペゴワッド。
「手荒な招待となった事はすでに詫びた。その上でその力を借りたいのだ。このアストルティアが魔物の世になる事は必定、なれば力を示さねば立場を失うのも理。そなたにとっても冥王様に連なる一席を得るのは誉れではないのか?」
「残念ながら私にはそうではありません。私の理想は別にありますし、ここであなたに手を貸せば友人に顔向けできなくなります」
リュナンの瞳には強い覚悟が見える。説得は難しいかもしれないなとペゴワッドは顎を撫でふーむと唸ると踵を返した。
握り締めた手に痛みをようやく感じてリュナンは深く息を吐く。
いかに理知的に語りかけようともペゴワッドの本性は冷酷でありその恐怖は強大だ。
ずらりと並ぶ牢の中で息絶えてなお、解放されることのないアストルティアの民達の魂の呻きがそれを証明している。
「……さん。今度こそ私は……」
シーバの鏡で幾度と聞いた懐かしい声を思い出しながら、リュナンは己が心を奮い立たせるのだった。
「おかえりなさいませ」
「あくま神官よ。贄の集まり具合は?」
「芸術や芸能に秀でた者など戦闘力が低いうえで、魂の質のよいものを選別しておりますれば、想定人数には今しばらくかかるかと」
「急がせろ。慎重に事を運んでは来たがそろそろ冒険者にも動向が掴まれるはずだ」
「はっ、しかし急いだとしてもプロトタイプの起動に必要な量には……」
逡巡が声に乗ったあくま神官を説き伏せるようにペゴワッドは続ける。
「そのためのリュナンだ。やつの秘術を応用すれば限界を超えて魂の魔力が引き出せる」
レイダメテスはもはやない。ならば個の質で補えばよい。
ペゴワッドはその野望の胎動を本格化させる決意を固めていた。
「悪魔系の魔物が関わった拉致、誘拐の件数は確かに増えているか」
ウェナ諸島の要、ヴェリナード城の一室で資料を広げたロスウィードは眉間にしわを寄せた。
「もう、アレの完成も間近だというのに、なぜ別の事件の資料を広げてるんですか」
そんなロスウィードの肩越しに声をかけたのは、生真面目な表情のウェディの女性だった。
「アスカ君か。今日は真面目に仕事をしているのだから、褒めても構わないぞ」
「本来の仕事をこちらに押し付けているから、様子を見に来たのですけれど!?」
あんまりな物言いに思わずまなじりを吊り上げるアスカだが、確かに今日のロス司令、顔は真面目である。
「そんなに気になる何かが?」
ヴェリナードの魔法戦士団はアストルティア各地に派遣され、諸国と協力して事件解決を目指すことも多い。
おのずと世界規模の問題にも敏感になる。
「まあね。ただ今回はあくまで彼女のクエストの協力者だ。今のところは」
資料を束ねて立ち上がるロスウィードにどこへと声をかける。
「りょーこ君のところ。報連相は大事にしないと♪」
「それ、私に対しても大事にしてくださいっ」
片手を上げて了解らしき雰囲気だけを残したロスウィードはそそくさと退室する。
「もう、言質を取らせないんだから。ああ、また残業なのかしら」
それでも憎めないのは彼の本質を知るからだろうか。
湧いて出た自問自答を頭を振って追い出すと、アスカもまたやるべき事へと向かっていった。