蒼天のソウラを含む二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動は私の妄想であり公認ではありません。
◆◆ベンガルクーンとキラーマシンの話◆◆
「なるほど。ためになりました。魔族の来歴となると詳しい者も限られますので」
「ちょうど手が空いていたところ。構わんよミカゴロウ」
厚みのあるオーガの青年に対面して座るするやせ細ったオーガの老人。
衰えを感じさせぬ背筋の伸びた姿勢と理知的な雰囲気を持つ男の名はライセン。エストリス様が仕える魔族イシュマリクの重鎮の一人ゆえに縁があり、こうして知恵を借りる事が出来た。
「猫死霊術の家系……それほど長き歴史を持つ者が関わっているとは」
「うむ。レイダメテスによる死者の魂収集の仕組みにも関わったと聞き及んでいるが……その後はあまり人の口に上らなくなっておった」
「とはいえ、あれらの品の価値が分るのも納得の家系です」
残念なのは報告にあった謎の乱入者に繋がる情報が見えてこなかった事だが、そもそもアイシス参号やシグナルについても身の安全を望んでいた節がある。
その意図も掴めぬので無理からぬことであった。
「お手間を取らせました」
静かに、それでいて流れるように椅子をひいて立ち上がるミカゴロウの所作に、満足げに頷きつつライセンは来客を見送る。
戸口で再び礼を尽くしてミカゴロウは自室を目指す。とにかく今以上に彼女を仕上げなければならない。
ご下命は必ず果たさねばと決意を新たにして、直立不動で待つであろうアイシス参号の姿を思い浮かべる。
しらず気合が入ったのか歩を速めると、不意に曲がった角の先にそのアイシス参号がまさに柱の如く立ち尽くしている。
「待っていたのか」
「はいマスター。私は追加の訓練を希望します」
願ってもない言葉であった。
しかしキラーマシンとはこれ程に勤勉なものだったのだろうか?
いや、もっと言えば自発的な行動を引き起こすものなのだろうか?
「どうしてさらなる訓練を?」
「果たすべき任務を果たせていません。最初の機会を無駄にしました。問題点は改善しなければなりません」
抑揚のない。いうなれば白の音色。機械人形ならば当然の言葉。
だがミカゴロウの耳はそこに揺らめきを感じる。
「そのための方法を自ら考えて、私に請うたのは何故なのだ?」
ほとんど変わらない、だがほんの少し柔らかい色を乗せた問いにアイシス参号は気づくはずもない。
「当然の帰結ではないでしょうか?」
「……。いつもの場所で待ちなさい。すぐに行きます」
「了解ですマスター」
頭を下げて綺麗すぎる礼をするアイシス参号の集音装置に不意にミカゴロウの声が収まる。
「その帰結に至った意味を理由を探しなさい。これも訓練……いや、宿題といったところですね」
理解不能と返そうとしたが、マスターの背はすでに遠い。
もしかしたら彼女は読み合いという概念に辿り着けるかもしれない。
その先にあるものが戦いを求める文字通りの殺戮機械なのか、全てをもってして行うべき事を理解する確立した存在なのか。
その功罪すらも分かりはしないが……自室に戻ったミカゴロウは手に馴染んだふんさいのおおなたと共に、一振りの刃を手にしたのだった。