蒼天のソウラを含む二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動は私の妄想であり公認ではありません。
◆◆ペゴワッドの決断◆◆
「戻りましたペゴワッド様」
「そうか。してネルゲル様は?」
「此度もまたベリアル様が名代として……我らの戦力増強については引き続き進める様にと」
あくま神官の言葉にペゴワッドは肘掛けを掴んだ手にみしりと力を籠める。
「……わかった。何事か他には?」
「魔導鬼ベズール様がおいでに。近頃は《太陰の一族》の助力を得て、勇者と噂の冒険者を罠に嵌める算段が整ったとの事でした」
口に上ったのは古き魔族の名家であった。
しかしながら自分達とは違い冥王誕生計画に直接組した者達ではない。
そのような外様の勢力が魔族にとって捨て置けぬ〈勇者〉攻略に関わっている。
突きつけられる事実に怒りと焦りが渦巻いていく。
巨岩の如き肉体の内で暴れる大嵐を抑えている主に、あくま神官は遠慮がちに言葉を続ける。
「いくつか情報交換を行いましたが気になる話が……ガルバ達の逃がしたベンガルクーンはどうやらリュナンの救出を目的としていたようです」
アイシス参号とシグナル。その戦いのやり取りは回りまわってペゴワッド達に知られる事となる。
「なるほど。だがその程度ならば猫島の連中にも同様の動きがあろう」
「はい。ただ件のベンガルクーンはそもそもレイダメテス計画時に関りのあった一族の末裔ではないのかと」
「!?」
唐突な話題だったがペゴワッドは一筋の光明を見た気がした。
冒険者達の動きが活発になり、良質な魂の贄が集まらなくなっていた。
元々より少ない資源で結果を求めるためにリュナンを手中にしたのだ。
もし彼女が祖先の知識、術を継承しているならばさらに計画に大きく寄与できるはずだ。
「レイダメテスの秘密を守るために消されたとも、才が潰えて没落したとも言われていたが皮肉なものだ」
ペゴワッドは口の端を歪める。
「さすれば我らだけでプロトタイプの起動に漕ぎつけられますでしょうか?」
「なさねばらなん。この力がいかに強大かはネルゲル様こそよく知っておるのだ。それをもって我らの権勢を取り戻さねば」
執念に塗れた凄惨な笑顔を向けられてあくま神官は知らず冷たい汗をかく。
とそこへ伝令のミニデーモンが駆けこんでくる。
気を持ち直して何事かと振り返るあくま神官に畏まりながらも、ミニデーモンは口を開いた。
「シャモドッキ様から、オーグリードの拠点が冒険者に発見されたとの報が!」
「むう。兆候はあったが動き出すとやはり早いな。アストルティアの冒険者ども……」
ペゴワッドは拠点の放棄を指示しようとして、その口をつぐむ。
「その冒険者どもはあえて逃がすように伝えよ」
「は? えっ!?」
驚くミニデーモンとあくま神官。
「そしてリュナンという魔法使いがそこに捕らわれているとの噂を流せ。上手くすれば釣り上げられるかもしれん」
もはや静かに深く動いていては窮するだけだ。
《星を打つ者》(コルピシ・ラ・ステラ)の首魁は我知らずに拳を強く握っていた。
グレン西端の山岳地帯にひっそりと口を開ける洞穴が点のように見える岩陰に二人の男が潜んでいた。
「見回りの回数、人数とも最低限。とことん目立ちたくないっぽいな」
「出入口は少なく見積もっても三つはあるぞなもし」
尾行の果てに辿り着いた場所。丸一日をかけて観察を終えたマージンとフルートは一つの決断に迫られている。
退くか進むか。情報を持ち帰るのが正道であるところなのだが。
「助けてーって聞こえたよなー」
「女性の声だったぞなもし」
そうなのだ。
周辺を探った二人は小さな空気穴らしき場所から漏れ聞こえた助けを聞き逃さなかった。
「声の感じから……小規模な砦の外壁程の厚さぞな」
「二発も使えば、うん行けるな」
様々な可能性を考慮する二人の男。
その存在をまだ知らぬ虜囚はいかなる人物なのだろうか?