覚醒した勇者アンルシア。そしてその盟友たる冒険者により、大魔王の野望は打ち砕かれた。よって、それに加担していた元帥ゼルドラドもまた、勇者一行に力及ばず消えて逝った。
勇者に討たれ、そしてそれ以前にシエラ巡礼地で味わった2つの屈辱を残したままとして。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なるほど。知らない間に、レンダーシアでそんな闘いが・・・」
青年ユキはその事実を知らないまま、今日まで旅を続けてきた。
そしてそれを語るのは目の前に立つ、【謎の未練】を残したと言い放ち、かつてゼルドラドによって消滅した体を現世に表した地獄老師。
老師「左様。じゃからのう、ユキよ。事が落ち着いた今だからこそ、お主に伝えておきたいことがあるんじゃ。」
その口調はひどく落ち着いたものであり、ユキにとっては見当がつかないものであるため、多少の緊張感を彼に与えていた。
ユキ「それが未練に繋がりが・・・?」
老師「うむ。お前さん、まだ【あのこと】をシルファーに黙ったままなのじゃろう?」
【あのこと】とは他でもない、今でもなおシルファーを偽り続ける、老師についての話であった。
老師が消滅する瞬間、シルファーを悲しませたくない一心で、眠っていた彼女の所に戻るのを踏みとどまり、以来今まで、「シエラ以外での新たな弟子を育てるための、世界の放浪」。そう偽り、事実をひた隠しにしてきたのである。
ユキ「そう・・・ですね。ですがそれはあいつを悲しませたく・・」
老師「今はいいかもしれんがの」
ユキの言い分を老師がさえぎる。
老師「感じたのじゃよ、お前の迷いが。だからこうして、ワシはシエラの地にまた表れた。」
ユキ「迷い・・・」
老師「事の経緯はすべてわかっておる。じゃがの、この先更なる強力な敵が現れるであろう旅の中、そのような迷いある剣で、戦っていけるのかの?」
本人しかわからぬであろうユキの内心を、老師はまるで覗くかのように語る。
それを黙って言い返さず聞くユキの態度も、その本心を見抜かれた動揺とみてとるのは容易だった。
硬直するユキを前にして、続けざまに老師は語る。
老師「お前とシルファーは二人でひとつ。これからも同じ道を歩んで行くことじゃろう。その片方に迷いがあっては、きっと越えられぬものが出てこようぞ。」
現世を離れていた老師であったが、結び付きの強さがこの迷いを察したのかどうか、だがその核心をついた発言は、ユキの心を動かすのに充分だった。
ユキ「確かにその通りですね。多少、勇気はいりますが。」
苦笑いだが決意を現にしたユキ。シルファーに向けた手紙を書き始めるのだった。
【シエラにて待つ ユキ 】