だいぶ日も傾いて来ましね。
ここが、ソーラリア峡谷です。リャナから一日がかりの行程で、
昨日のキャンプファイアーがもうだいぶ昔のようです。
お疲れさまでした。
ここで雄大な景色と美しく沈みゆく夕陽を眺めながら、一服いたしましょう。
アラハギーロからお越しの観光客の皆さまには少々厳しい土地柄でしたね。
しかし、その景色たるや、いかな疲れをも吹き飛ばしてしまう程の素晴らしい景色となっております。
長い間風雨に晒されむき出しになった力強い岩山が
徐々に削られ溝を形成し、そこに川が流れ更にその溝は深まり、
切り立った、あたかも剣の刃先を思わせるような地形を形成しております。
裾野に広がる雲海が、まさしく海のように広がっておりますね。
周囲をみても岩肌には土はほぼついておらず、巨大な岩のみ。
これはこの地層が悠久の年月を経た証しなのです。
この力強く、あまりにも厳しい地に、人は修行の場を設けました。

それがこの神殿です。
今はもう朽ち果ててしまい、活用されなくなってしまった神殿ですが、
ご覧の通り水道が渡されており、かつてここを多くの人々が行き交った証左となっております。
不思議なことに、この神殿には居住区がございません。
ひたすらに石畳の回廊が続くのみ。
つまりここは巡礼の地であり、訪れた人々は何がしかの祈りを捧げ、
またすぐに旅立って行ったのでしょう。

山を流れる豊かな水をうまく利用し、尽きぬ水源を確保したかつての文明を生きた方々の大いなる想像と創造。
そこにはまた、多大な犠牲があった事でしょう。
それでもこの神殿を創り上げた理由は何なのか?
王の権力の誇示とは違う、神聖な意思を感じるこの神殿。
何か大きな目的があり、それを果たさんとする意思の結集を感じ取ることができ、そこに今を生きる我々も心を惹きつけられるのだと思います。
では、かつての人々がその命を懸けてまでこの神殿を創り上げた目的とは何なのか?一つ、気になる扉があります。

それがこちらの、まるで意思を持っているかのような瞳が特徴的な巨大な扉です。
…はい、あの元気なプクリポさんが、何やら愉快なダンスを踊りだしましたが、実はこの扉にそっくりな扉がアラハギーロを挟み反対側、
ピラミッドの中に確認されております。
それはあのダンスを…。
お客様、ありがとうございました。こちらはそのダンスでは開きませんので…。はい、おしぼりでございます。
この様にダンスを踊ると開く仕掛けが施された扉があり、この神殿との関係が研究されております。判明し次第、ムーニス王から何がしかの重大な発表があるかもしれませんね。
もしかしたら、国民の食糧危機に備え作られた宝物管理の為の国家規模の倉庫であったピラミッド、その建造者と同じような目的である可能性が有るのです。
つまり、何か恐ろしい危機が我々に迫った時、この神殿に隠された何かが、我々を救う事になるのではないか、と。
これはあくまでも私の想像でしかなく、あの勇者アンルシア姫やその盟友たる方など、一部の方にしかわからない部分かもしれません。我々一般の国民には想像するしかない部分でございます。

あの美しく舞う光が何か、皆様、ご想像が出来ますでしょうか?
答えはあの本殿の中にございます。
壁に這う蔦、そこに、ここでしか見られないそれはそれは可愛らしい花が咲きます。その花は中心部が淡く光り、そこから空へまいあがっていく花の花粉が、あの光の正体です。
では、今夜は本殿の中で一泊したいと思います。
古代の民が、今を生きる我々に残してくれたものが何なのか?
その想いに感謝し、その謎に心ときめかせながら、
この険しき地に建てられた神殿で眠る。
そして明日はいよいよ本殿を散策していきたいと思います。
どうかお客様には、安らかなひと夜の憩と、尽き果てぬ夢の時間となることを願っております。
ではどうぞ、こちへ。