「では僕が。昔、アストルティアのどこかの砂漠の王国の王子様が、夜な夜な城をこっそり抜け出して城下町で身分を隠して遊んでいたんだ。そんなある日、王子は城下町でブラックレディと呼ばれる、ベルベットのような腰まで届く黒髪に黒い肌、夜空のような漆黒の瞳で黒いドレスに身を包んだ美しい女性に出逢った。ブラックレディは始め、全く王子に見向きも返事もしなかったが、毎晩毎晩あの手この手で気を引こうとする王子のあまりの熱意に根負けし、徐々に心を開いていった。ついに王子が身を明かし、ブラックレディにプロポーズをすると、なんとブラックレディはそれを受け入れた。しかし、王子が喜びいっぱいにその件を王に報告すると、王は『そんな雑草のような女との結婚は認めない。お前はこの国の繁栄の為にも隣国の姫と結婚するのだ』と、反対されてしまった。それならばと王子は駆け落ちしようとひとりブラックレディの元へ向かうが、そこには息絶えたブラックレディの姿があった。ブラックレディは王子をたぶらかした庶民の女として王様に暗殺されたのだった。王子が泣きながらブラックレディを抱き上げると、下から現れた真っ黒なサソリが逃げていった。それからというもの、王族が砂漠に近寄ると黒いサソリに襲われるようになったという。王族しか襲われないのは、そのサソリがブラックレディの生まれ変わりで、王族の事を恨んでいるから……と城下町の人々の間で噂されているそうな」
「ミランくんのお話、全然怖くなかったわ」
「どうしてです?」
「おどろおどろしい場面も無かったし、あたしは王族じゃないから襲われる心配無いもん」
「ああ、僕はこの話を聞いた時とても怖かったのですが、そうですよね。なるほど」
「サソリ……おいしい?」
「食用ともされているようじゃが毒があるし危険じゃ!捕まえようとしてはいかんぞ!」
「そうよラピスさん。はい、次は誰が挑戦する?」
「聞いてるだけじゃつまんないし、オレの話も聞かせてやるよ」
「じゃあリソルくんお願いね」
「ベルヴァインの森の奥深く、夜の一番深い時間になるとフードを被った白いローブの人影が現れるんだ。それが毎年決まったある1日だけ、赤くなる。なんでだと思う?」
「着替えたんじゃねえか?」
「別の人なんじゃない?」
「その日だけ特別なんじゃないでしょうか?お祝いとか」
「何か知らせたい事があるんじゃないか?」
「赤い月が照らす……?」
「魔界とて月は赤くないじゃろう」
「がっかりナデシコが惜しかったね。お祝いじゃなくて命日。その魔道士が殺された日になるとその時の血でローブが真っ赤に染まるんだ」
「っ!」
「赤いローブの魔道士を見た者は、その日家に帰ると家の中が血だらけになっているんだ」
「ひっ」
「うわ」
「だから魔道士の命日には森に入らない方がいいよ。まあ、呪われる訳じゃないけどね」
「わー、リソルくんしっかり怖いじゃない!やめてよ!」
「僕たちは魔界に行かないだろうけど、主人公にはその魔道士の命日を教えてあげておいた方が良いんじゃないか?」
「気が向いたらね」
「え、やだ本当の話なの!?」
「うふふ、リソルくんも上手ね。さて、まだやりたい人いるかしら?」
「はい!私にやらせて下さい!」
「どうぞフランジュさん」
「ええと、これは師匠と依頼を受けながら各地を転々と旅していた時の話なのですが。ある晩、野宿で師匠は先に眠りについていて、私だけなぜだか寝付けない日があって。そうしたら森の中からガサガサと音を立て盗賊が現れたんです。師匠を起こそうとしましたが全く目を覚ましてくれなくて、私がひとりでオノで追い払いました」
「盗賊もアンタにはさぞかしびびっただろうね」
「朝になり目的の村に着きその盗賊の話をすると、皆さん大変驚かれました。その盗賊は前に村で盗みを働いたそうなのです。そして村人に見つかり逃げている際に崖から転落して亡くなってしまったと。村の皆さんの話によると、私達が昨晩休んだ場所がその崖の近くだったらしいので、霊として現れたのではないかとの事でした。この話を聞いた村の神父さんが崖でお祈りをして下さったので今はもう出ないそうです。いかがでしたか、私の怪談」
「フランちゃんの頼もしさが増したわ」
「だな。フランジュ、お前すげえな」
「怖くはなかったですか?」
「フランジュ、かっこいい!」
「うむ、それほど怖く感じなかったかの」
「やはりもう少しオノさばきについて説明した方が怖かったでしょうか!?」
「そこじゃないから」
「フランジュさん、オノさばきは説明して貰わなくても目に浮かぶわ。さあ、次話したい人はいるかしら?」