その生に意味があれば、死もまた意味づけられるというのは間違いだ。
むしろ、漫然とした生であるからこそ、その死は役立つ。
モンセロ温泉郷。
対、バングル戦。
私は祈っていた。「塔」のカードを連続してドローしないように。
なぜならば。
バングル戦は短期決戦だ。早くグリンのほうを始末しなければ、仲間を呼ばれて消耗戦になりかねない。
そのため、バフ(強化)よりはさっさと攻撃してしまったほうが、長期的にはともかく、短期には良い影響である。
しかし、全体攻撃「塔」が手札に二枚あった場合、死を意味する。
占い師のみの。
「塔」の二連撃を食らったバングルたちは、間違いなく怒り状態に達し、占い師を集中攻撃する。
最悪「とびかかり」を三連続で食らうのだ。
運が良くても、占い師に耐えられるものではない。
しかし。
その日、私の手元には二枚の「塔」があった。
仲間の視線が突き刺さる。
(大丈夫だ、後でザオしてやる。さっさと塔を使え!)
(後は、私のマヒャドに任せればいいのにっ……!)
(まさか、他のカードを選ぶつもりじゃ……)
それでいいのだろうか? たとえ甦れるにせよ、死者を出す前提での戦いに、意味などあるのか。
脂汗が流れ落ちた。手元が震え、タロットが滑りそうになる。
いや、本当に滑らせてしまえば、後に残るのは仲間の叱責……。
「なんであの時、塔を使わなかったんだ!」
「チームプレイだろ、チームプレイ!」
「使えないわねえ……」
ふ ざ け る な !
私は崇高なパラディンではない。
ただの、チンケな占い師なのに……。
やってやる、やってやるぞおっ……。
魔法使いのテンション上げるだけにしてやる……。
その日、私は二枚の「塔」を使った。
当然、三匹のバングルは私に狙いを定めた。
「何やってんだ、タゲ下がりしすぎだぞ!」
「戦闘エリアから出るつもり!?」
「卑怯者!!」
構うものか。私だって命は惜しいのだ。
何回かに一回、塔が連続する確率で死ぬバトルなどできるものか!
ほら、もうすぐだ。もうすぐ、戦闘エリア外っ……!
外周には、とある冒険者が立っていた。
そいつは言った。
「頑張れ!」
ピッピッピッ。バシューン。
思わず足を止めた私の背後へと、三匹のバングルがとびかかってきて……。