エルフのふるさとツスクル、その学び舎から彼女が卒業して2年が過ぎていた。
彼女はアストルティアでも屈指の名門高である、グランゼドーラ大学に史上最年少で合格、まさに天才であった。
大学では常に成績トップ、畏敬・尊敬の眼差しもある
周りからは間違いなくそう見られていた、私もそう思っていた。
何もかもうまくいっている
そう、あの日までは・・
ある日の帰り道、私はノートを教室に置き忘れていた事に気がついて、慌てて来た道を引き返していた。
すると途中マスクをかぶった大きなあらくれが道端の横にうずくまって、何かしゃべっていた。
しかし何を言っているのかは聞こえなかったし、特に興味もなかった。
道のすぐ裏に酒場が見えたので酒で酔いつぶれてしまったのだろうか。
あらくれを横目に、私は急いで学校へ戻った。幸いまだ門は開いていたが流石に他の生徒の影は見えなかった。
教室でノートを鞄に入れると、私は「ほっ」とした。
明日までに提出しなければならない課題をまとめたノートだったからだ。
日も落ち始め、人通りはなく薄暗くなる中、私は学校をあとに帰路についた。
すると、来る時にはうずくまっていたあらくれが、腰を落としているのが遠くから見えた。
ただし少し前とは状況が異なっていた。私と同じ制服を着た学生と何やら揉めているようだった。
私は関わりたくなかったので、道の反対側から遠巻きに通りすぎようとしていた。
「おっさん、金だせよ」
あらくれの肩を足蹴にしながら、恐喝している学生の姿が見えた。
グランゼドーラ大学内では過度な染髪を校則で禁止しているということもあるが、金髪の学生を見たことがない。
一部のグループから外れたいわゆる「不良」がいないわけではないが、そのような学生は学校に来ないから「見たことがない」と思っていた。
次の瞬間、あらくれは腕で足を払いのけると、その不良はバランスを崩して倒れ込んでしまった。
背中に担いでいた鉄パイプのようなものが、鈍い音を出して転がっている。
あらくれはまだ酔っぱらっている様子である。
遠くから眺めていたが不良は一向に立ち上がる気配はない。
流石にこれはまずいと思い近づいた私は、倒れている不良を見て目を丸くした。
金髪だったはずの髪が黒くなっていたからである
不良はまだ倒れている、相変わらず周りに人影はない。
不良とはいえ同じ大学である、両脇を下から抱えて、あらくれと離すように遠ざけた。
その時、不良が倒れた際に外れたであろう金色のウィッグとマスクが落ちているのに気が付いた。
あらくれはこちらには気を留めていないのか、何か喋っているだけだ。
追ってこないのを見て私は安堵したが、不良は気を失っているのか全く起きる気配がない。
青ざめた私は救急車を呼ぶために電話すると、倒れている人の名前と生年月日を聞かれたが、今初めて会った人で分かるわけがなく答えられなかった。
暫くして到着した救急車に搬送され不良は行ってしまった。
電話しているときだろうか、あらくれもいつのまにかいなくなっていた。
私は事件でも解決したかのような気持ちであったが、すぐ明日の課題の事を思いだした。
道端に置いたままにしていた鞄を手に取ったときに、ふと見覚えのあるものが目に入った。
学生証である。
自分のものは胸ポケットに入っている、あの不良のものだろう。
これを先に見つけていれば名前を言えたなと思いつつ学生証を開いた。
そこに書かれていたのは
名前 ゆうこりん
出身 ツスクル
種族 エルフ
ただの偶然か、グランゼドーラ大学が誇る彼女と同じ名前である。
アストルティア学園を覆う闇は深い -FIN-