と丸釣りグランプリ最終日。
桟橋で竿を握りながら、わしは波の音に身を預けておった。
釣れるかどうかより、
今日はなぜか海そのものが胸に沁みる夜じゃった。
「ロトさん、今日こそ更新いけますって!」
背中から声がして、わしは笑って手を振った。
ランキングなど気にしておらん。
じゃが、この静けさは……なんじゃろうか。
浮きを見つめていると、
潮騒とは別の“何か”が胸の奥を撫でていく。
懐かしいような、呼んでおるような、不思議な声じゃ。
大会が終わり、仲間たちと別れて一人になると、
その声はいよいよ近くなってきた。
――来ておくれ。
「……仕方ないのう。ちぃとだけ寄ってみるか。」
気づけば足はジュレットの海へ向かっておった。
夜の海は、昼より静かで温かい。
桟橋の先に立つと、潮騒がまるで息をしておるようじゃ。
その瞬間、波が足元で弾け、
青白い光が視界を包んだ。
「なんじゃ……?」
浮きも竿も、すべて消え失せ、
胸の奥であの声だけがはっきりと響く。
――帰る時が来たんだね。
「帰る……? わしはどこへ……」
問いかけるより早く、
光と潮の冷たさが全身を包み込んだ。
沈んでおるのか浮いておるのかも分からぬまま、
わしは深い海の底へ落ちていった。
◇ ◇ ◇
遠くで潮騒がする。
まぶたを開けると、朝の光が肌に触れた。
頬を撫でる潮風。
肩に張り付く濡れた髪。
手を見ると――
肌は薄い青。
「……なんじゃ、この姿は。」
波打ち際へ駆け寄り、水面を覗き込む。
そこに映っていたのは、
もはやエルフのわしではなかった。
鋭い耳。
海風にはためく髪。
荒くれ者のような衣装。
薄青い肌が朝日に照らされ、
どこか神秘的に光っておる。
「ロトさん!? 大丈夫ですか!?」
「ちょっ……似合いすぎでは!?」
「完全に海の民なんですけど!!」
チムメンたちの声が飛び込み、
わしは思わず照れ笑いをした。
胸の奥で、小さな波がぽちゃんと跳ねる。
昨日までくすぐられていた“あの声”が、
今ははっきりと笑っておる。
じゃが、同時に分かった。
この姿は常のものではない。
潮騒が呼ぶ“時”にだけ現れる真の姿。
今日だけ宿る覚醒の形態。
わしは深呼吸し、静かに目を閉じた。
そして――
――真・大魔王ロトシオン、海辺にて爆誕。
潮騒はまだ、わしの名を呼んでおる。
この身体が消える前に、
もう一度、海の向こうを見に行こうかのう。
覚醒は永くは続かん。
だからこそ、今日という日が特別なのじゃ。