胸の奥で鳴る波は、
今日も静かで、しかし妙に温かかった。
わしは何も変わっとらん。
いつものエルフで、
いつもの日課に向かい、
いつもの仲間たちの声を聞いていた。
じゃが、
心のどこかが確かに“揺れた”一日だった。
最近、
多くの者から光を向けられるほどの存在が、
なぜか時折、わしにそっと風を送ってくれる――
そんな不思議が続いておる。
まるで
「見ておるぞ、大魔王」
と冗談めかして囁くような、
軽やかで、それでいて温度のある風。
その一瞬の風が吹くだけで、
荒れそうだった波が、ふっと整うのじゃ。
また別の日には──
何気ない贈り物が、
まるで灯りのように胸の奥でぽっと光る瞬間があった。
強く照らすでもなく、
押しつけるでもなく、
ただ「おつかれ」と言うように
そっと置かれていく 小さな紙切れ。
それは風のように軽く、
けれど不思議と温かくて、
わしの胸の奥で静かに灯りへと変わっていった。
そのさり気なさに、
わしは何度も救われた。
光をまとい、
影すら美しく見せてしまう者。
そしてもう一方は、
静けさの中で灯りをともす者。
全く違う二つの風と灯りが、
気づけばわしの胸の波を
静かで、深くて、あたたかなものへ変えていた。
光だけでもだめ。
闇だけでもだめ。
人はそのどちらかを切り捨てるのではなく、
どちらも抱えたまま揺らぎ、
それでも前に進むからこそ美しい。
わしは大魔王などと呼ばれてはおるが、
その実、ただの旅人にすぎぬ。
それでも、
この風と灯りを胸にしまって歩くなら、
見える景色はきっと変わるじゃろう。
影を恐れず、
光を過信せず、
胸の波に導かれながら
いつもより少し静かに歩いてみる。
今日も胸の奥で、
波がこう告げておる。
「気づいたなら、それでよい。
言葉にせずとも、心は届いておる。」
そう囁くように、
静かに、深く、優しく鳴っている。
わしはその波に従い、
また一歩を踏み出すとしよう。
光と影を抱えたまま、
灯りに照らされながら、
次の景色へ向かって。
胸の奥の波は、
今日も静かに鳴っておる。