マーベルの冒険日誌

ハロウィン

それは冥府の門があぎとを開き、
幾千幾万の死霊が生者を求めて溢れ出る夜。

その死霊を祀り、これを鎮める祭儀こそが
ハロウィンである。

そのおぞましくもある種の熱気に包まれた闇の夜。

彼女が、彼女たちがやってくる。
無慈悲な運命と絶対なる殺意の代弁者が。 生命を枯草のように刈り取る鎌を握りしめ
屍臭をまとわせた黒衣の破局を伴として
生を嘲笑い、死を撒き散らすために
彼女たちが現世（うつしよ）へとやって来る。


ここで一つ、西洋で有名な喩え話をしよう。


ある金持ちの畑が豊作だった。

金持ちは、
『どうしよう。作物をしまっておく場所がない』 
と思い巡らしたが、やがて言った。

『こうしよう。倉を壊して、
もっと大きいのを建て、
そこに穀物や財産をみなしまい、
こう自分に言ってやるのだ。
「さあ、 これから先何年も生きて行くだけの
蓄えができたぞ。ひと休みして、
食べたり飲んだりして楽しめ」と』


・・・しかし、彼女は、
冷徹なる冥府の女王は言った。
嘲笑に幾何かの憐憫を含ませて。 『愚かな者よ、
今夜、あなたの命は取り上げられるの。
あなたが用意した物は、
いったい誰のものになるのかしら？』


赤貧のただなかに路上を宿とする者も、
世の全てを手中に収めた天下人も。

誰一人彼女の手からは逃れ得ない。

有象無象の区別なく、
命あるものならば全て等しく。
ただの一つの例外もなく彼女は刈り取っていく。

ハロウィン。
それは死霊と戯れる一夜の夢のようである。

しかし、心せよ。

汝、亡霊を装いて戯れなば、
汝もまた亡霊となるべし。
以上、冥府の女王・しらたま様と死神親衛隊が
お送りいたしました。