※この物語の時間軸は、Ver2.2終盤です。未到達の方は、ご容赦ください。
※また本作は、ゲーム本編及び関係者・団体とは一切関係ございません。2次創作が苦手な方はご遠慮いただきますよう、お願い致します。
※過去作『とけないこころ』と、そこはかとなくリンクしてます。
※part1からお読み頂くことを、強くおすすめします。
『盟友殿、こんな時間に、どこかお出かけですか』
『外の空気を吸いに行こうと思って』
『時間も時間ですし、それに顔色が……誰かお供につけましょうか』
『そんなに遠くへは行かないわ。それに、一人になりたい気分なの』
『しかし――――』
『心配かけて申し訳ないけど、お願い』
『はあ、まあ、そう仰るのでしたら』
『ごめんなさい、ありがとう』
「風が気持ち良いでしょう?」
盟友は、城に続く橋の中ごろで、何をするでもなく呆として、まだ明けやらぬ黒塗りの空を見上げていた。
隠し通路を抜け、兵士の目を盗み、ともすれば市街地まで一直線に駆け抜けようとした矢先の、意外なまでに早い発見であった。
先に声をかけたのはアンルシア。
「勇者の盟友は夜更かしさんなのかしら」
言う程の距離を動いてはいなかったので、息は上がっていない。落ち着いた声色でアンルシアは投げかけた。
「ベッドの寝心地が良すぎて、逆に寝れなくてね」
視線をちらと寄越したが、盟友はすぐにまた緋色の瞳を空に戻す。
「そうだったのね。では、明日から粗末なものを用意させるわ」
「あら、冗談よ。気を悪くしたらごめんなさい」
わざと大げさな手振りを伴って、アンルシアは話に乗ってみせた。軽妙な掛け合いは、もちろん二人とも分かってやっている。数拍置いて、双方からクスリと笑みが漏れた。
お隣いいかしら。断りを入れる必要もないと感じつつ、アンルシアは聞いてみる。もうひとたび緋色が勇者を捉えるが、その双眸が少し柔らかに目尻を下げたのを了承の意とみて、アンルシアは歩み寄った。
「偶々私も起きてて、貴女の具合が悪そうだと聞いたから、心配になったの」
「成程。私がこのままどこかに逃げると不安になったのかと思ったけど」
「少し前までは、ね」
あえて否定はせず、アンルシアは眼前に纏わりつく金糸を右手でかき上げた。絹のような感触が指の間を通っていくのを確かめながら、皮肉を言う相手を心の中で窘める。結構根に持つタイプだったのだろうか。
「アバ様」
「え?」
「いつも小言の多い、私の故郷の巫女様。もういい年のおばあちゃんなんだけどね。姉が、そのアバ様をしょっちゅう怒らせては、代わりに謝るのがいつも私の役目だった」
意外にも、続けざまに言葉を発したのは盟友の方であった。一見すると脈絡のない、唐突な。 思案の最中で、虚を突かれた勇者は、酷く素っ頓狂な声を上げてしまった。その様子を見て目を細めた盟友は、「故郷の話よ」と素っ気なく付け加えた。
驚いた。盟友はあまり自分の事を語りはしない。誰に対しても心を閉ざし、必要以上の交流を良しとしなかった。故に、話の内容以上に自分から切り出した事そのものが、勇者に衝撃を与え、心を揺さぶった。
しかし、それが彼女の目覚めた理由なのだと、アンルシアは一人合点した。
「イナクは優しい子でね、何かあったら自分の事みたいに助けてくれたの」
盟友の心境に何があったのか、アンルシアは知らない。
「苦いからいらないって言っても、クダイのおじいさんはどくけし茶を飲ませようとしてたし」
ただ、よどみなく綴られるその思い出語りの様子は、
「寝坊した時、外の子だった私を起こしに来てくれたのは決まってタララおばさんだったわ」
まるで、瞼の裏にその光景を映しているかの如く克明で、鮮やかさに満ちていた。
「貴女からそういう話を聞くの、初めてね」
「今までは話す必要も無かったから」
素直に、アンルシアは驚嘆の意を述べる。拍手すら送りたい気分であった。
「何だか、羨ましい。そこに住む一人一人と、とっても素敵な繋がりがあるなんて――――」
「――――死んだわ」
~part5へ続く~