お洒落の都・・・というより最近はある種シュールレアリスムの都になっているメギストリス。入口すぐの広場には金を求めて討伐隊員ポッカラを取り囲む冒険者たち、4万の依頼をありがたいことに無料配布してくれる冒険者、熱心にチーム勧誘活動を行うリーダーたちのすぐ隣には恐怖の展覧会が常に開催されています。
「うふ~ん」「あは~ん」と喘ぎながら艶めかしい踊りをするガチムチ女装オガ男。オシャレしている人を執拗に追い掛け回すおっかけ。ひたすら愛らしいプクリポを攻撃し、痛みと恐怖で泣くプクリポを見て愉悦とえもいわれぬ快楽に浸るもちつきの搗き手たち。肌の色に染色したタイツを全身に装着し全裸で走り回るドワーフ。線香花火、杵、シャンパン、シャワーによる水責め、ツボやメタキンに化けることによって圧し潰し攻撃をたった一人の冒険者に与える謎の集団。
そんな大魔王マデサゴーラの芸術の影響を受けたかのような、「神様仏様みてこの有様」と言いたくなるような都の広場に一人の冒険者が現れました。
その人は独り言のようにぼやき始め、チームの勧誘活動をしている人に一つ二つ質問をして絡んでまたぼやくということを繰り返していました。いつものように恐怖の展覧会の展示作品となっていた私は興味本位で聞き耳をたてることにしましたのです。
曰く、「ここで募集しているチームには加入するな」
曰く、「入ったところでなんのメリットもない」
曰く、「体験入隊とか意味わからん。入るなら入れ」
曰く、「君が転校生だとして、すでに出来上がったクラスのグループに馴染めるのか?私は無理だ」
プクリポを愛でながら聞いていた私は、なるほど確かに、と思いながら聞いていました。
当然すべての言い分に賛同するわけではありませんが、仮にチームに入ったとて何か利益を得られるのかと問われれば「ほとんどの場合得られない」と答えます。
新規入隊しても結局はチームの頭数の養分になるだけ。「チーム〇人!」と宣伝したところでそれが何なのか。多ければ良いというものでもなし、多かったとて休止していたり引退したりしているなら居ないに等しい。
仮にアクティブ率が高くても既に人間関係が出来上がっているから馴染めないし、固定パの中に入るのは実質的に不可能。更にわざわざ人と組まなくてもオンラインゲームといえどもサポ仲間というシステムのおかげでソロでも楽しめてしまう。
人が絶対に必要な防衛軍や邪神は野良でいい。常闇や聖守護者、咎人は緑玉で募集する方が確実。邪道な方法として傭兵もある。絶対にチームメンバーでなければならない理由がないのです。
雑談の場にする?それは「チャットルーム」でできることです。元々はある目的の為に一時的に集まる為の機能でしたが、今はログアウトしても追放されないので完全に名前通りの機能になっています。人数だって数人いれば十分雑談できるので40人しか入れないルームでも事足りてしまうのです。
入っても何もしない、何もできない。イン時間が合わない、チームがコンセプトを守れていない、チームが崩壊していてもはやチームの体を成していない。
星の数ほどあるチームの中で、いったいどれほどのチームがチームとして活動できているのでしょうか。むしろ活動できているチームを数えた方が早いのでは。
とりあえず入って「もののふ」「聖騎士」といったチーム限定のアイテムを購入したら抜ける。そんなもはや互いに利用して勝手に消えるだけの状態になっています。
便利な機能が多いが故にチームでなければならない理由が存在できない。薄っぺらい友情や寂しさ予防の人数だけはあるチームが溢れかえるアストルティア。かつて私は様々な理由からチームを転々としていた時期がありましたが、ずっとここで活動していたいと思えるチームは終ぞ見つかりませんでした。
そんなことを考えながら棺桶の釘を打っていると、いつの間にかその人は居なくなっており、残されたのは変わらず勧誘を続ける人々と手を変え品を変え冒険者を出迎える展覧会と休憩時間0の討伐隊員ポッカラだけ。鬱屈とした感情を吐き出したことでスッキリして成仏したのか、彼女はもう戻ってはこないという予感がしました。
けれども彼女の言葉や節々から滲み出る失望感や無力感、倦怠感は妙に心に残り続けています。