少女が国を滅ぼしてから数日が経った。突如として蠢く死者が溢れたこの国には周辺国家も警戒し、未だ干渉出来ずにいた。そして、それ故に。
「…たいくつ。なんにもすることがない」
年頃の少女は大層暇そうにしていた。
「はなしあいてがほしいな…、しんだひとはごはんはもってきてくれるけど、それいがいはうーうーいってるだけだもん、もうあきちゃった」
彼女の従者である動く死体達は召喚系の魔術の例に漏れず、召喚時に命令を受けなかった時特有の「術師の生命活動を守る」という行動を遵守していた。その上彼らは特別上等なアンデットという訳でもなく、知性と呼べるものは有していなかったのである。そんな事など知る由も無い少女は一言。
「そうだ!はなしができるしんだひとをつくればいいんだ!」
名案だと言わんばかりに笑みを浮かべ、少女は駆け出して行った。…自分の発言がかなりぶっ飛んだものである、ということもまた、少女には知る由も無いのであった。
彼女が駆けて行った先は城下町の中にある建物の一つであるパン屋であった。自分がまだ奴隷であった頃に何度か使いに行かされたことのある店で、店主とは何度か話をしたこともある。多少なりとも面識のある人物なので、手頃な話相手になるだろう、という判断であった。店内で突っ立っていた元店主に向かって、彼女は術をかける。
「しゃべれるひとになれ~、しゃべれるひとになれ~…ええいっ!」
何度か使い方を死体や人形相手に試した能力は、既に彼女の中である程度掌握されていた。そしてその感覚は少女に紛れもなく成功だ、と告げ…
元店主は頭からボロボロと崩れ去り、灰となってしまった。
「あれ?おかしいな…ぜったいいけたと思ったのに…」
自分の勘は上手くいったと囁くが、目の前の光景はその真逆。その意味をしばし考えた結果…
「たぶん、もっとえらい人じゃないとだめなんだ、おしろのひとをつかわなきゃ」
子供特有のポジティブシンキングで、彼女なりの答えを導き出した。そうと分かれば善は急げとばかりに、少女は「偉い人」を探すために城へと駆けてゆくのであった。