「やあやあ!こんにちはア君…おいメファ、今はひょっとして夜だったりしないか?だとしたらこんばんはが適切な挨拶だということになる。初対面で変な印象を与」
ボサボサの茶髪に丸メガネ、よれよれの白衣姿の男性。それが複合国家グリムの国王リヴィルに私が抱いた最初の感想だった。妙ちくりんな発言にあっけに取られる私をよそに、彼の横で控えていたメファが迅速に返答する。
「あなたの脳味噌はそんな下らないことではなく、もっと人類のためになることを考えるべきだと以前話しましたよね?…分かったら多少なりともまともに会話して下さい、それが我々にとって最も優先すべきことです。
因みに、今は夜です。」
「なんということだこれは由々しき事態だぞ!いや失礼したなア君よ、実は私かれこれもう15…」
直後に彼はメファによって部屋の反対側まで蹴り飛ばされ、その後彼女の手によって再び玉座まで引き戻される。
「さっさと本題に入れ」
「はい…」
本当にこの男がメファの上役なのか、疑わしくなる姿であった。
「さてア君、この部屋に来るまでの間にフィムは
新人類のことや異界のことについてしっかり説明してくれたかい?まだ理解しきれていないのであれば私から「駄目です、私が説明します」あ、はい…ま、まあ、そういう訳なんだが、どうだい?」
私は心の中で素早く思案を巡らせる。私の目的…メファへの復讐を自分の働きの対価とするには、従順さを示すべきか、ある程度反抗的に振る舞い、いいように扱われる気はないことをアピールすべきか…
(だめだ、今は情報が少な過ぎる。少し皮肉を交えるくらいが無難かもしれないな…)
「…そうですね、この部屋まで割と距離があったので、彼女と話す時間はたっぷりありました。なのでしっかり理解できていると思いますよ?」
「そうかそうか!それは良かった」
…どうやら彼に対しては皮肉が伝わっていないようだが、視界の端でメファが若干眉を顰めるのが見えた。無意味ではなかったかな、と心の中で評価を下しつつ、続くリヴィルの発言に集中する。
「では、我々が君に求めていることを単刀直入に説明させてもらう。…ずばり、君の生成できるアンデット達を、異界の探索に利用させて欲しいんだ。」
「それはまた…理由をお聞きしても?はっきり言ってあなたの隣のその女一人で事足りるとしか私には思えないんですがね?」
ヴーとルーのことを思い出し、思わず怒りを剥き出しにしながら返答すると、リヴィルの代わりに、意外なことに無表情なメファがそれに答えた。
「あなたの召喚魔法は死体の質が高い程強力なものが生成される…複数のドラゴンゾンビの軍団であれば、私にとってもかなりの脅威です。戦力としては申し分ありません。
その上、アンデットは娯楽も、食事も、睡眠も、酸素も必要としません。長期間の探索にはもってこいでしょう。」
「付け加えると、繋がった先の異界にとんでもない化け物がいて、メファやフィム、ハウンドが殺されたり、正気を失ったりする可能性もあるからね。替えの効くアンデットなら、一定のラインまでは危険を犯してでも探索を進められるという利点もあるんだよ。」
なるほど、異界とは想定よりも危険な場所らしい。それなら納得だ、高性能な私の死霊に及びがかかるのも分かる…そういった冷静な考えも私の頭の中にはあったが、同時に、思わず怒鳴り散らしたくなるような激しい怒りも覚える。
(お前達にとっては使い捨てられる便利な存在だったとしても、私にとってはヴーやルーは替えの効かない家族だった!!それを、それを分かって私にそんなことを言ってるのか!!
……いや、もし本当に分かってて言っているのだとしたら、これは私を苛立たせるための罠。一旦冷静にならないと)
必死に自らを律する私をよそに、リヴィルは更に爆弾を投下してくる。
「君さえよければ、今から試しに、メファと共に異界の探索に向かって貰おうと思う。…以前に安全の確かめられた場所だし、勿論報酬も出すつもりだからね。そこで彼女から色々と我が国の運営方針について……?どうしたんだい?」
「……王様、流石に言い方って物があるとは思わないんですか?」
ぽかんとしているバカ野郎も、呆れたようなクソ女も、何もかもが憎かった。