……………
ここは一体どこなんだろう。
それが最初の疑問だった。
ボロボロになり、あちこちが風化しつつある祭壇。そこに私の体は横たわっていた。
次に、自己への疑問。
私は一体何故ここにいるのだろうか?
記憶をゆっくりと辿ってみたが、漠然とした不安感を覚え、ひとまずこの疑問は見送ることにした。
そして最後に、家族のことを思い出した。
何故?どうして、家族のことを思い出さなければならないのだろう。何故私は、こんなにも。
苦しくて、悲しくて、恐ろしくて。
何もかもを引き裂きたくてたまらないのだろう。
…………
「人の子よ、目を覚ましなさい、使命を全うするのです。」
「…………ッ!?…………ハアッ、ハアッ…………」
脳内に直接響くような言葉によって、私は目を覚ました。反射的に自分の体をまさぐるように触り、どこにも異常がないかを確かめてしまう。…何故?
「ようやく目覚めましたか、人の子フィーネよ。もう時間がありません、あなたの魂を現世に受肉させねばならないのです。」
また声が聞こえた。なんとか相手を特定しようと辺りを見渡すと、崩れ去りつつある祭壇の中で唯一、輝きを放つ石像が見てとれた。
「………ァ、?ァ………??」
その声の主と思わしき物に向かって質問を投げかけようとする試みは、"自らの喉が潰れている"ことにより失敗する。………何故?
「魔王の手により放たれた、"冥王ネルゲル"。勇者生誕よりも早くこの世界を滅ぼそうとするモノを、あなたは討たねばなりません。」
冥王。
その名前を聞いた瞬間、私の体が震え出した。それは一体、何故なのだろうか。
「…?どうしたのです、人の子よ。あなたの仇でもある冥王に対抗することのできる唯一の存在なのです。あなたの自由意志は元よりありません。」
………"気付き"と共に、血反吐混じりの声が、喉から溢れ出す。
「うあ、あああ」
「……ああ、あなたの肉体の問題の件は、追って対処します。然るべき時に、修繕を施した肉体を提供する手筈となっています。」
あの時、村は燃えていた。
「あああああああああ」
小麦を挽く大きな水車は、真っ先に焼き尽くされた。小さい頃、釣りに勤しんだ川には瘴気が垂れ流された
「あああアアアアアア」
捨て子だった私を、家族同然に扱ってくれた村の皆は、一人ひとり、丹念に苦しめられながら皆殺しにされた。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その日、一人の少女が死んだ。
体を焼く炎の熱さに絶叫し、自らの愛した全てを奪った存在へと怨嗟の声を上げながら。
その日、一匹の獣が生まれた。
決して許さないと。お前らが皆にしたように、同じように、お前らから奪ってやると。
ただそれだけを望み、渇望する獣が。