風の町アズランの朝は早い。
町全体を流れる風によって空は毎日のように晴れ、燦然と輝く太陽は分け隔てなく人々へ光を投げかける。
しかし、今日はそんないつも通りの町の光景の中に、ひとつ異様なものがあった。
往来を曇りきった表情で歩く「死に装束の」少女…そう、手持ちの金がないせいで宿に泊まれず、食事も取れなかったフィーネその人である。
「エルドナのばかやろ~………なにが「私の使命は終わりました、あとはあなたに世界の命運がかかっています」だ……私の食事代くらい用意しといてよ…それかまともな着替えをさあ…」
先程、どうにか資金を確保しようと飲食店や武具屋で仕事の交渉をし、「土まみれで死に装束という異様な風体」を理由に断られた彼女は、もはや考えが少し浅かった神を罵倒することと、空きっ腹を鳴らすことくらいしかやることがなかった。
あてもなく辺りをうろつき、物乞いを視野に入れ始めたフィーネだったが…ふと自らを凝視する少女~歳は10代前くらいだろうか?~が映る。黄緑色の髪と赤い大きなリボンが特徴的な少女は、その外見に似つかわしくない鬼気迫る顔でこちらを見ている。
(…え、なんだろ、私何かしたかな…?いや、明らかにおかしな格好をしてるのはそうなんだけどさ…)
そうフィーネが思案している間に、少女は一直線に向かってくる。
先程と変わらぬ鬼気迫る顔のままで。
若干の焦りを覚えるフィーネのもとにあっという間にたどり着いた少女は、睨みつけ続けていた相手の腕を掴み、こう言い放った。
「…なんで姉様が、生きてるんですか?」
「……………え?」