「……姉様は、先日魔瘴の研究中の事故で亡くなりました。
私達で、確かに看取ったんです。
それなのに、姉様の姿で町を歩き回ってる奴がいる」
エルフの少女はそう呟くと、フィーネを連れ込んだ部屋の鍵を後ろ手で閉めながら、静かな怒りを湛えた声で
「事と次第によっては、私があなたを殺します。」
そう、言い放った。
(ヤバいヤバいヤバい!この子どう考えても私が今使ってる体の生前の知り合いじゃん!)
大通りで話すよりは目立たなくていいだろうと思い連れ込まれた部屋だったが、そういった事情があるなら話は別だ。なんとかして逃げる…もしくは上手く弁明して納得させる必要がある…なんたる理不尽!
「ま、待って、訳を話させて、お願い」
「ええ、勿論構いませんよ、くだらないことを言ったらその瞬間に殺しますけどね」
(ひえ~!!!)
10代に届くかどうかという少女だったが、放つ殺気は本物だ。なんとか納得をさせるような弁明をしなくてはならない…この相手に、だ。
(候補1."姉様"になりすます………無理。私はこの体の人となりを知らない…
候補2.素直に本当のことを話す……間違いなくまともに取り合ってくれないだろうし、却下。
候補3.記憶喪失のふりをしつつ、エルドナからの神託があったとかなんとか言って誤魔化す…これはありかなあ…)
「え、えーと、あなたは私が蘇る前の知り合い…なの?実は私…」「嘘を、つこうとしましたね?」
その言葉に、思わずびくりと反応してしまう。
「……そうですか、であれば、あなたを殺してもう一度姉様を埋葬することにします。こういった現象が起きないように体から完全に魔瘴を抜ききってから、ね。」
大通りで私を初めて見つけた時のような鬼のような形相で、少女が迫ってくる。
(どうしよ!?今のはブラフに乗せられたってだけ?それとも嘘を見抜く能力があるとか!?だとしたら嘘はつけないし…
…でも、これだけ怒られるのも当然…なのかな、勝手に知り合いの体を使ってる訳だし…)
そこまで考えたフィーネの頭の中に、自分だって家族や妹の死体を勝手に使われてたら…という思考が浮かんだ。そして、そこに思い至った時、彼女は思い出した。
忘れてた。
私以外は、皆死んでたっけ。
皆は、私みたいに…蘇ることなんて、ないんだっけ。
そして、彼女は「また」意識を手放した。