技術大国ドルワームによって世界中に発表された
「ドルセリンに代わるエネルギー資源」、魔瘴石。
国が高額で買い取る品であるそれを求め、冒険者達でごった返すカルサドラ火山の入り口、そこに少々場違いな雰囲気_上流の所作を身につけるエルフの少女がいた。
落石対策に被ったヘルメット、土埃に汚れた少しだぼついた作業つなぎは、少女がここで出稼ぎにきたのが1度や2度ではないことを示している。
「黒パン3つとシチューの缶詰2つ…野菜のやつでお願いします。…あと、飴もひとつ。苺味のを。」
手早く買い物を済ませた少女は、品物を両手に抱え
人混みを掻い潜り、足早で火山の中へ向かった。
なにせ、火山に作られた即席の坑道の中では、少女の憧れの人_中身は別人だが_が、お腹を空かせて自分を待っているのだ。なるだけ急がなくてはならない。
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火山の坑道に入ったフウラを迎えたのは、目が痛くなるような赤と、強烈な熱気だった。
砂漠である程度身体を慣らしているとはいえ、顔面を滴り落ちる汗を止めることができない。
あついあついといつものように呟きつつ、まばらになってきた冒険者の間をすいすいと抜けていく。
そうして坑道を走って数分、ようやく目的地である
場所_フウラの連れである、ツクスルの誇るエルフ
きっての天才であり秀才…の体に間借りしている人間「フィーネ」の元に辿り着いた。
「お待たせしました!頼まれてたお昼、買ってきましたよ!!」
つるはしの起こす採掘音に掻き消されないよう大声で呼びかけた甲斐あって、フィーネは作業の手を止め、振り返ってくれる。
「あ"~、ありがと~……ようやくお昼休憩だあ!」
朝から昼の2時の半ばまで続く単純労働に余程疲れていたのだろう、彼女は持っていたつるはしを投げ出すと、半ば飛びつくようにしてパンと缶詰を受け取りに来る。
だが、いくら中身がどこぞの馬の骨といえど、外見は憧れの先輩。こんな汚れた服装で密着するのは論外と断じたフウラは、用意しておいた飴を突きつけた。
「はい、頑張ったご褒美に飴を買ってきましたよ!
今日のは苺味です!」
飴を視界に入れたフィーネは急停止、即座に両手でパン2つと缶詰、口で紙包の飴を受け取ってその場に
座りこみ、無言で食事を取り始める。
これは相当無理をしているな、と察したフウラは、
事前に尋ねようと思っていたことを後回しにする。
どうせ答えはいつもと同じだからだ。
ぐう。
自分の腹部から鳴る音に気付いた少女は少し顔を赤らめる。
つるはしの音に紛れて聞こえることはないと
分かってはいるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
とにかく、さっさと腹の虫を黙らせてしまおうと、
フウラは自分の缶詰を開けた。