アストルティアきっての技術大国、ドルワーム王国。氷結晶の嵌め込まれた剣、魔物の目玉をあしらった杖、カラクリの仕込まれた盾。
ここでしか買えないような品を求め、この街のマーケットでは、冒険者や商人達が日夜目を光らせている。
「…そんな場所に来た訳だけどさ」
「はい」
「私達に、ここで買い物できるようなお金ってあったっけ?」
安物の麻の服を纏ったエルフの少女二人…控えめに
言っても、周囲から浮いているのは間違いない。
買い物に行くということでいつもの作業つなぎは宿に置いてきたのだが、どちらにせよ、この場に相応しい服装ではないだろう。
「元々は冥王に通用するような装備を買うために
貯めてたお金です、使い所が来たってことですよ」
服を買いに行く服が無いっていいますし、と呟く
フウラの言葉にフィーネが納得しつつあった頃、
大量に並び立つ露店のひとつをフウラは指差して
駆け寄りだした。
慌ててフィーネは彼女を追いかけ…そこで、ずっしりとした鈍色に輝く大剣を手渡された。
「どうです?ちゃんと振るえそうですかね?」
「え、いや、確かにちょっと重いけど許容範囲…
じゃなくて」
素人目から見ても、新品の大剣からは量産品の雰囲気がぷんぷんと漂ってくる。
とてもネルゲルに対抗できるような武器には見えない…そう判断したフィーネは、自分の考えを伝えることにする。
尤もと言えば尤もな意見にフウラは頷き、剣を買う
理由を教えてくれる。
「ええ、最低限実用に耐えるであろうてっこうせき製のクレイモア。
それが、これから[服を買いに行くための服]です。」
またよくわからない話をされたなと思いつつ、
新しい日常の始まりを、手に持った剣の重みと共に
フィーネは感じていた。