16才でドルワーム王立研究所の院長となった天才。
「院長、こちらの資料にお目を通して頂けないでしょうか?」
新しいエネルギー資源「魔瘴石」の開発第一人者。
「院長、今月に入ってから魔瘴石の産出量が減少しているとの連絡が入っています、組合にはなんと返答しますか?」
そして、ウラード国王の正当なる後継ぎ…
「院長、他国からの出資者が面会を…
「要件を伝える際は一人ずつ頼むと前々から言っているだろう!私のできる仕事の量にも限度がある!!」
違うか、と叫ぶ彼こそが、"院長"ドゥラである。
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結局、要件は尽きることなく沸き続け、仕事からひとまず解放されたのは午後2時を過ぎた頃だった。
水晶宮から出てから、行きつけの店へと向かうドゥラは、思わず大きなため息を吐いてしまう。
(己を認めさせるための布石とはいえ…毎日こうも
忙しいと、気が滅入ってくるな…)
自分の経歴に箔をつけるために奔走していたドゥラは夢の中で信託_「太陽の石」を生み出す方法を知らされた時、神も私の道を肯定してくださっていると思ったものだ。
だが、魔瘴石の採掘に着手した辺りから彼一人が担う仕事量は膨れ上がり、次々発生するトラブルの
対処に追われる中、彼の頭の中に、ふとした疑念が
生まれた。
これ、もし王子だと認めてもらえたとしても、宮殿
暮らしは出来なくないか、と。
自分一人の手柄にしてしまおうと、プロジェクトを
個人で推し進めたのはよくなかった。おかげで研究院は既に、彼がいなくなると首が回らなくなるまでになってしまっている。
(枯渇しかけてた太陽の石の製法を知る唯一の研究員だからなあ…、このまま一生院長として働くことになってもおかしくはない…)
せめて少しだけでも自分の抱える案件が軽くならないものかと思案しながら、路地を曲ろうと横を向き…
「きゃ」「うお」
注意力が散漫になっていたのか、飛び出して来た相手とぶつかってしまった。
連日の激務にうんざりしていたこともあり、一言いってやろうと相手の方に向き直ったドゥラの目に、
小さなエルフの少女_小柄なドワーフの目から見ても小さい_と、路地に落とされたパンと飴玉が入ってくる。
(あ!これはマズいぞ!)
少々ぼんやりとしていた思考が、自分が年端もいかない少女の食糧をぶちまけたのではないかという疑念
_ほぼ間違いなくそうだが_により急速に引き締まる。
「きっ、君、大丈夫か?怪我はないか?」
急いで少女の元に駆け寄ったドゥラは、そこで彼女の着ている服は、魔瘴石を採掘する人々に配布されている作業つなぎであることに気付く。
(な、なんだと!?火山内に出る魔物は王国兵によってある程度は駆除されたが…それでも危険なことには変わりない場所だ!
そんな所で、年端も行かないような子供が働いている…?)
ということは、そんな危険な仕事をしなければならないような相手の運んでいた食糧とは…
「だ、大丈夫です………いえ、私なんかよりも、
学者さんは大丈夫ですか?」
そんなことを言いながらも、目の端に涙を浮かべる
少女に胸をぐさぐさと刺されるように感じながら、
ドゥラは心の中で叫んだ。
(やらかしたああああああああ!!!!!!)