『ほんの少し時間をください』
『少しだけ、、少しだけでいいんです。』
初め、彼女は行き交う人々にそう言い続けているように見えた。
なかなか来ない人を待ちながらボーッとするのにも飽きていた私は彼女を観察してみることにした。
彼女は駅前のそこそこ有名な芸術家(名前はなんだったか忘れてしまった)がデザインした微妙なモニュメントの前に立っている。
私のいるベンチからはちょうど向かい合う形だ。
もっとも、私は座っているし距離もいくらか離れているし間に帰宅時間の駅前らしく人の波もあるのでそうそう目が合うこともない。、、、だろうと思ってさらに観察を続ける。
出で立ちからして品があるように見えるけど、勧誘なのかな?
と上目使いに見ていたら、目が合った気がして目を伏せた。
(長く見すぎたかなぁ、、)
人間観察なんて止めとけばよかった、、、
恐る恐る視線を上げると、先程の後悔が脳裏を過った。
『少し話を聞いてくれませんか?』
彼女は真っ直ぐにこちらを見て言った。万事休す。
観念した私は、時間潰しくらいにはなるだろうと彼女に歩み寄った。
『よかった! 気づいてくれないかと思ってました。』
彼女は微笑みながらそう言うとペコッと頭を下げた。
『いや、気づいてたけど、、私はちょっと様子を見てたの。』
私は、(え、天然?)と思ったけど顔には出さずにそう答えた。
『え!? そうだったんですか?』
(うん、間違いない。天然ちゃんだ。)
『みんな忙しいからいちいち構ってられないの。』
『、、、みんな?』
彼女は一瞬怪訝そうな顔をしたけれど、思い直したらしく
『あ、申し遅れました。私は、、、』
と、言いかけたところで
『ごめん、話ってなにかな?』
私は相手の自己紹介を中断させて用件を聞いてみた。
自分でも嫌なやつだなと思ったけど、初めて会った他人の事だし長く付き合う訳でもないしね。
だって、そういう性格なんだもん。
『あ、えと、、そうでした! 少しだけお話聞いてください。』
(だから、それはわかったって)
少しだけタメ息でたかも。
『うん、わかったから。聞いてあげるから話してみて。』
『いきなりこういう事を言われて驚くでしょうが、あなたはとても幸せでしたか?』
『!? はぁ!? 』
(やっぱりそっち系の勧誘だったかぁ!)
あまりにも予想通りだったので、私は退散しようと半歩下がった。
『あ、待って待って! 行っちゃダメです。』
『ごめん、そろそろ待っている人が来るから、、』
最終奥義【待ち人来たる】発動!
『来ませんよ♪』
彼女は微笑みながら私をじっと見つめた。