彼女が私の手をすり抜けて、どれくらいが経ったでしょうか......。離すつもりなんて無かったのに、私は...私は......。
もう何日も食べ物が喉を通っていない。意識もはっきりしないまま、私は誘われるように森の中へ入っていた。すっかり奥まると木々はその剣呑さを隠すことも無く、どちらを向こうとも変わらない風景はここが命の最果てなのだと悟るには十分な材料だった。何も知らずに咲く満開の野花の憎たらしいことです。
私は鈍くなった脚をそれでも動かし、歩くのをやめなかった。今更ここから出られるなんて希望は抱いていない、寧ろ逆です。私がもう助からないことを確かめて楽になりたい、寄る辺のないその状況を確信にして足掻けなくなりたい。ただそれだけで頭を敷き詰めて、最期には───
「セラフィ...」
ああ、言ってしまった。最後まで、私だけが君を忘れられないんですね......。でも、それでいいのかもしれない。瞬きよりも刹那的な、最後には辛くて苦しい思い出だったけど、それでも無かったことにはできないんです。
こうなったら朽ちるときまで彼女の声を、顔を、口癖を、仕草までも思い出してやりましょうか。そんな風に思うと途端に身体中の力が抜けて仰向けに倒れ込んでしまった。頭上には満天の曇り空。はは、曇りですか。吹っ切れて空を見上げた時は目を背けたくなるような青色が瞳を反射するのがセオリーでしょうに。
「してんし...?」
迎えの片道切符を握りしめて身体を起こす。どうやら地獄行きの列車は今すぐにでも発ちたいらしい。
しかし、どれだけ目が霞んでいても分かる。私に駆け寄って来たのはいつか別れた筈の天使だった。あれ......、どうして。
「してんし!どうしたの!?」
何度も聞いた声だ。何度も聞きたかった声だ。乱暴に私の肩を揺する彼女を押し倒し、死にかけだった身体のことなんて容易く忘れてしまうと、、、
ぶちゅ~~~~~。
からの、
スリスリスリ~
からの、
エンディング。 fin.
また次回!