私の小学校低学年の頃の将来の夢、知ってますか?知らないあなたの為に教えてあげましょう、石です。
河の下流に転がる角の取れた丸い流紋岩。自分で物を考えられず、口も聞けず移動もできず。そんな存在になりたいと幼心に思っていました。
まさかそんな夢をドラクエ10が別の形で叶えてくれるとは!感激で言葉も出ません。
時は戦国、群雄割拠。世界を統治するのは魔王ムドー。支配とはムドーのことであり、ムドーとは支配のことである。
私たちは毎日をムドーの手の中で怯えて暮らしていました。いえ、正しくは暮らすことを強制されていたと言うべきでしょうか。
けれど、このまま命朽ちるときまで不自由でいいのか...。
翼持てども心は発たず(オリジナルのことわざ)。
私たちは立ち向かわなければなりません、一生に一度の人生ですから。心は恐怖で震えていました、身体も嫌だと拒みます。それでも自分の本当の気持ちに蓋をして、足を踏むは孤島の中心、屹立した霊峰の尾根で不気味に佇むムドーの城。
入ってしまえば退路は絶たれます、引き返すことなど許しては貰えません。私は3人の仲間と共に最奥へと進みました。
そして、私たちが最後の扉を開けるや否や、薄暗く霞がかった空間で奴の声が反響します。
私には分かります、ステレオ録音に強烈なリバーブ。終いには5.1chの規格使用。この魔王、声が立体音響です。
「わっはっはっはっ。この私をたおそうなぞあまくみられたものだな。おろか者め!石となり永遠の時を悔やむがよい!」
360°、どの方向からも奴の声が聞こえてきます。上質なサウンドに耳をやられました。私の意識が最後に記憶として残っているのはここまでです。
私は、気付く間もなく石になっていた───