その後一年ほど修練を積み、村の定めである出立の儀をこなすと、その証しとして迦楼羅様が身に纏っていたという天狗の装束とともに、一族の氏を冠した「舜夜(シュンヤ)」という名を授けられた。
旅立ちは夜だった。村から踏み出した一歩に、ついに冒険者となった重さを感じた。
何が始まり、どこへ行くのかは、まだどうでもよかった。ただ月が空に張り付いていた。たくさんの星が揺れていた。
情熱が胸にあふれ、まっさらな未来を掌に握りしめている実感だけ鮮明に覚えている。
その後、旅の途中カミハルムイに寄ることがあるたびに、足は自然と道場へ向かう。
しかし御嬢様はいるはずもなく、また異端児の僕が立ち寄ったところで誰も喜びはしないから、いつも道場から漏れてくる稽古の声をしばし懐かしむだけで立ち去ることにしている。
ただそのたびに思うことがある。今御嬢様に会ったとしてあの方と剣を交えられる腕だろうかと。
「精進しなければ。」
根拠はないが、必ずまた出会える、そんな気がしている。
おしまい。
受かるといいなあ。