「もうちょい、右」
「このへん?」
「ちょ、違うって、もっと左だよ、ひだり!」
「えー! 右って言ったじゃんか!」
「…………おーし、そのへんで、おkおk」
「ふぃ~。……しっかし、まぁ、こんなんでホントに上手くいくのかね?」
「ああ、たぶん大丈夫だろ。このメンツなら、絶対、これ選ぶしかないって」
「おい、そろそろ目を覚ますぞ」
「よし、全員隠れろ!」
【DQⅩ茶番】 刈り取れ! ネル子さん
「あれ……、ここ、どこ?」
目覚めたのはエルフの少女。見たこともない不思議な空間に、ぽつねんとひとりきりだった。
「あたしは……たしか」
ぼんやりとした頭で思い出そうと試みる。
「あたし、もしかして……」
「――そう」
突然、響き渡る謎の声。
「お気の毒ですが、あなたは死にました」
「まぢでッ⁉」
驚愕するエルフの少女。
「……じゃぁ、ここは、天国?」
「いいえ、違います」
「え……、ま・さ・か……、地獄ッ⁉」
「いいえ、そうではありません」
「はっ!」
エルフ少女は急に辺りを見渡した。
「待って。この場所、あたし、どこかで見たことあるよ!」
雲の中に浮かぶ円状の部屋。祭壇の上には石像らしきものが立ち、それが空間を囲むようにいくつか配置されている。
「うん……、間違いない。学びの庭で見た、古い文献に載っていた場所と同じだよ……」
そしてその文献には確かこう書かれていたはずだ。
心正しき者は生き返しの儀を受け、他種族の姿を借りて蘇ることが出来る、と。
謎の声が告げる――、
「さぁ、あなたが思い描く種族、その神像の前にて、ひざまずくのです!」
とは言われたものの、あまりにも突然すぎる事の流れにエルフ少女の足元は覚束ない。
とりあえず、目の前にそびえ立つ一体の石像に近づいてみる。
それは、どの石像よりも大柄でたくましく、全身から力強さが溢れ出ているような赤き姿、これぞまさにオーガ……ではなく、
「アトラスっ! 目ぇ一個だし、棍棒持ってるし、これ、アトラスやんッ!」
驚愕のエルフ少女、再び。
「ええええー……、なんか違ぁ~ぅ。あたし、アトラス族にはなりたくないなぁ……」
「なにか、気に喰わないことでも? まさか、生き返りたくはない、と?」
謎の声。
「あ、いや、そうじゃなくてね、もうちょっと考えてからと言うか、ほら、あたしって優柔不断ぢゃん?」
「知らんがな」
「ちょ、次つぎっ!」
エルフ少女は隣の石像に近寄ってみた。
打って変わって今度のは小柄だ。ふっくらとした身体つきにその大きな耳は福をもたらす象徴か。全身を覆う大きな盾と剣を携え、緑がかったその姿はまさに、
「シールドあにきッ! これ、ドワやない、シールドあにきやんッ!」
「おや、ドワーフをお選びになりますか?」
「違うから! いや、似てるけども! あにきのほうだからレア度は高いけれども!」
おかしい、何かが違う。エルフ少女の頬にはたら~り、冷や汗が。
恐る恐る、さらにその隣の石像をうかがってみる。
「…………なに? この、うさぎ?」
エルフ少女の問いには、
「プクめんバニー」
謎の声。
「無理があるッ!」
エルフ少女は拳を床にはげしく打ち込んだ!
「せめて見た目を似せる努力をしなさいよおおおッ!」
しょうじょの さけびが こだまする!
間。
「いや、もぉ、逆にちょっと面白くなってきたよぉ……。次はなに、なんなの?」
オーガ、ドワーフ、プクリポ(全部まがい物だが)と来れば。
そこに鎮座ましまするそのお姿は、豊かな盛り髪、手にはムチ、あしなが八頭身、揺れるナイスばでぃ……、
「ファラオ・ヘルマーぁッ!」
もう水とか魚とかかんけー無しかッ!
「いやぁ、この世界、女性タイプって少ないんですよねぇ」
「知らんがなッ!」
ちょっと転生してみたくなったわ、ヘルマ。
つづく。
※この物語はフィクションです。