「次が、最後、だよね?」
残り種族はあとひとつしかない。
だが、自分はエルフだ。エルフこそが今の自分なのだ。同じ種族に転生することは出来ないはずだ。だとすれば……。
少女は石像に近づき、最後の一体と対峙した。
「こ、これは……ッ!」
禍々しい笑みをたたえつつも、どこか気高さを感じる整った顔立ち。その恐ろしく冷たい視線に魅入られれば、生きとし生けるものはすべて、自ら命を差し出してしまいそうになるだろう。
「――そう、彼こそが、あまねく死を統べる冥界の王、ネルゲル様」
謎の声がそう告げると、
「これが、冥王ネルゲル……?」
全てを刈り取る巨大な鎌、悪しき者の証である双角、貴公子らしく凛とした姿勢、それはもっとも美しく、もっとも危険な存在。
「ふふふ……、やはりそのお方を、ネルゲル様を、選ぶのですね?」
すべてを見透かしたような謎の声。
確かに、アトラスやシールド小僧とかにはなりたくないし、覆面バニーだって、ちょっと、アレだし……。
そんなこんなで。
エルフ少女はすっかりネルゲル像に釘付けになっていた。
「ですが、ネルゲル様本人になれるワケではありませんよ」
「あ、そうなの?」
不意に我に返った少女。辺りを見回すが、どの方向にも誰もいない。だが謎の声は続く。
「ネルゲル様は唯一無二の存在なのです」
「え、じゃあ、あたしは何に転生するの?」
「あなたには冥王様のチカラを分け与えましょう。エルフの子が冥王ネルゲルの子として生まれ変わる、そう、あなたは、なんと言いますか、こう……、【ネル子】になるのです!」
「ネル子となッ⁉ そんな、なんて安直な!」
もはや恒例となりつつある驚愕のエルフ少女。
だが彼女を差し置いて、一際芝居がかった謎の声が響き渡る!
「それでは参りましょう……、おぉ、暗黒にまします悪霊の神々よ、忠実なる魔王のしもべ、エル子のみたまを、いまふたたび呼び戻したまへ!」
とつぜん まばゆいひかりが
あたりをつつむ!
「え、いや……、ちょ、待って、やっぱここは、ないすばでぃのヘルマに……、【ファラオれ、ヘル子さん!】にぃ……ッ!」
「お黙りなさい、小娘」
「ひぃ……ッ!」
しょうじょの からだが かわっていく……!
ややあって。
全身を包む光の粒が音も無く消える頃、少女の姿はすっかり変わっていた。
ガラス状の床に自分の姿を映して確かめてみる。
「これが、あたし……?」
そこにいたのは、ネルゲルの姿をそっくり真似た少女、まさに【ネル子】そのものだった。
桃色で長かった髪は、銀色の短髪に。その頭部には悪魔のような双角が。エルフ族の普段着だったはずが、黄と緑を基調とした奇抜でスタイリッシュなスーツに。
そしてもうひとつ、刈り取るものと言えばコレ、手には鎌。しかし、鎌はカマでも、
「くさりがまぁああああ! なにこれ、ちょージャラっジャラするンですけどぉ、鎖が! あたしは忍びか! くのいちかッ?」
「いきなり大鎌を持てるとでも思ったか?」
「うわ、ビックリした! 誰……、アンタ?」
そこに居たのは、一つ目いがぐりハンマー道士でお馴染みの、
「あくましんかんが あらわれた!」
「え、なに、それ自分で言うの?」
「ということで、目覚めたばかりでよく分かってないであろう貴様にオレ様が説明をしてやるので有難く思うが良い」
「てい!」
ざっくり!
「おわーッ! ちょ、おま、何しやがるッ!」
ネル子の こうげき!
あくましんかんは 5のダメージを うけた!
「ん? いやなんか、いきなりエラソーだし、なんとなく。あと、この鎖鎌の試し斬り的な?」
使ってみると意外と悪くなかった。くさりがま。
(※冒険初期にはまずこれを目指してお金を貯めるよね、だいたい)
つづく。
※この物語はフィクションです。