ベリアルは口調を正した。
「おぉ、そのお姿! まさしく冥王様の生き写し! 転生されたという話は本当だったのですな!」
ベリアル。言わずと知れた大悪魔である。
古より魔王護衛に従事し、高い知性と強靭な巨体を併せ持った恐ろしいモンスターだ。
そのベリアルがネル子に対し、
「それにしても、随分可愛らしいお姿になられたのですな~ぁ」
急なゴマすり攻撃ッ?
それを受けてのネル子は、
「ぅえぇッ! そ、そぉかなぁ……?」
満更でもないようだった。
やった!
ネル子に こうかてきめんだ!
顔を赤くして照れ出す、わかりやすすぎるネル子さん。
で、ベリアルが続ける。
「そう、なんと言いますか、こう……、ただの思いつきなのに貧乏エルフが頑張ってドレスアップとカラーリングでコスプレしてみちゃったのは良いものの大金はたいてそれだけじゃ勿体ないしせっかくだから茶番のひとつでも演じてみようかなっていう、感じのアレですね!」
「そのメタ発言、今すぐやめーーーぇッ!」
ネル子、絶叫す。ふたたび!
「では、冥王様。お待ちくださいませ。こやつらを今すぐ血祭りにしてみせましょう!」
ベリアルはぎらり、鋭い眼光を若者と幼女に向けた。
「ひぃッ!」「きゃぁッ!」
ふたりは怯え出した。
「ちょっと待ってってば! そーゆーことしちゃダメだかんね!」
ネル子は凛と立ちはだかった。
「? 何故です、冥王様? やつらの泣き叫ぶ姿が見たくないのですか?」
不思議そうなベリアルだ。
「んなもん、見たいワケないでしょ!」
「またまたご冗談を。やつら弱者どもの阿鼻叫喚こそが我々の嗜好でしょう?」
「う……、まぢでか? さすが魔族どもだよ」
ネル子は若干引いている。
ベリアルが何かを思い出すように続ける。
「そして就寝前のワインとチーズ、捕らえた弱者どもに無理な縛りプレイ……」
「ちょえぇッ? そんな、ぢうはっきん的な表現、ここでしても大丈夫なのッ?」
慌て出すネル子。
「そう、武器防具無しや一人旅は当たり前、魔法禁止、最小戦闘回数クリア、カウンター技のみでクリア等々、そんな無茶な縛りプレイを、何時間も延々とやらせ続け衰退していく様を視聴するのが、何よりのお楽しみだったでしょう?」
「そっちッ? てか、悪趣味! ドSこじらせて変な方向に悪質だよ!」
――つぅか、それってただ単に一杯やりながら動画見て寝るだけぢゃね?
「しかも、80~90年代のレトロゲーばかり」
「おっさんか! もしくは、ちょっと疲れたヲタ系アラフォーOLか!」
「冥王様、偏見はよくないですぞ?」
ベリアル。
「うるさいよ! 個人の見解だよ! ……てか、いい加減にしないと、あたし、アンタを刈り取っちゃうかんねッ!」
ネル子は距離を取って構えた。
「……おかしい。小娘、もしかしてキサマ、冥王様ではないな?」
ベリアルが怪訝そうな目を向けた。
「やっと気付いた? そうだよ、あたしは冥王なんかじゃない」
「どおりでな。変だと思ったぜ」ベリアルは口調を変えた。「冥王様はツッコミ気質じゃなかったはずだ。どっちかってぇと、ボケるの大好きだったもんな、あのお方は」
「そんなのどっちでもいいよ!」
――てか、冥王がボケ大好きってどゆことなん? そんなネルゲル様なら是非一度お目に掛かりたかったわ!
しかし、ネル子はグッとこらえた!
つづく!
※この物語はフィクションです。