「勝った……あたし、勝てたよ……ッ!」
ネル子は歓喜の声を上げた。
身体を包んでいた闇のチカラが徐々に薄くなっていく。
ふと、向こうでうずくまっているエルフの幼女に気がついた。
あの子を守る為に強くなれた気がする。
ありがとう、それを言うためにネル子は近づいた。
「もぉ、大丈夫だからね」
ネル子は幼女に手を差し伸べた。
しかし、
「いやぁ! こないでぇッ! こわいよぉッ!」
「え……っ?」
なんと!
ようじょは おびえている!
泣き叫び、後ずさるエルフの幼女。
どうやらネル子を拒絶しているようだ。
「その子から離れろッ、この魔族めッ!」
「――ッ? 痛ぁ……ッ、もぉ、なにさ?」
ネル子の後頭部に何かが当たった。
振り向くネル子の顔を石がかすめた。
「次はその子の生命を奪うと言うのか?」
ウェディの若者が石を投げつけて来た。
「やめてよっ痛いってば! てか、そんなこと、あたし、するワケないぢゃん!」
今度は頬に石が当たった。
「黙れ! お前ら魔物が散々暴れやがって、森は滅茶苦茶じゃないか!」
ウェディの若者が叫んだ。
「あ……!」
ベリアルとの死闘のせいで辺りは荒れ放題であった。
焼きただれた木々が何本も倒れている。すでに殆どが鎮火しているが、未だに黒煙を立てている箇所もある。草花は踏み荒らされ、鳥も動物も姿を消してしまった。
「魔族め! お前みたいな危険なヤツは生かしておいちゃいけないんだ! 覚悟しろ!」
突然、若者が襲い掛かって来た。
ウェディ男の こうげき!
ミス!
ネル子は ダメージを うけない!
「ちょっと待ってってばッ!」
ネル子の はんげき!
つうこんの いちげき!
「うわぁーッ!」
若者が勢い良く突っ込んで来たのでそれを躱したネル子。そのとき偶然足が引っ掛かったらしく若者は顔面から地面に、思いっきりすっ転んだ。
「ご、ごめんね、……だいじょぶ?」
「く……今は、一端、退くとしよう……!」
ウェディ男は ふくつのこころで おきあがった!
「あのぉ、鼻からどっくどく血ぃ出てますけど……?」
「だが! この傷を癒したら、必ず! お前ら魔族を倒してやるからな!」
「そんな……あたし……違う……」
ネル子はうつむいた。
「いいか見てろよ拡散してやる! そしたらすぐに冒険者たちが討伐に来るからな!」
なんと!
ウェディ男は にげだした!
「ちょーぉッ、あたしゃレアモンスターかッ?」
イヤな臭いが周囲に立ち込めていた。
風が止み空気は汚され絶望の予感だけが残された。
「はぁ……。どぉして、こうなっちゃったのかな……ははは」
もう笑うしかなかった。
涙は出てこない。どうやって泣いたらいいのかさえ分からなかったからだ。
と、
「へーいベイビーっ!」
「うわ! ビックリだ。……なに、アンタ?」
いきなりそこにあらわれたのは――、
「ネル子さま! あっしでやんす。さっきのベリアルでやんす!」
「は~~~ぁ? アンタ、どっからどぉ見ても、ベビーサタンじゃん?」
でっかいフォークを持った舌のなが~い紫色の小悪魔だ。ただし、そいつの身体は黄色だった。
「あっしは、悪しき心をネル子さまのチカラで刈り取られ、転生したでやんすよ。今後とも、ヨロシクでやんす!」
「いや、意味わかんないし。なんでよろしくせにゃならんのさ?」
ネル子は怪訝な顔をした。
「冥王さまをお守りするのがあっしの使命でやんす!」
「明らかにさっきの姿のほうが強そうだと思うんだけど……」
「そんなことより早くここから離れるでやんす。騒ぎを聞きつけて人が大勢来るでやんすよ!」
「げっ! まぢで? とりま、行かなきゃ!」
「ちょっ、待ってくれでやんすよー」
ネル子とベビーサタンは駆け出した。
そのとき――、
「おねーちゃーん! さっきはごめんねー! たすけてくれてありがとー!」
走りながらネル子は背中でそれを聴いた。
振り返らずに走り続けるネル子。
その足取りはほんの少しだけ軽やかだった。
*
暗闇の中、謎の禍々しい声が交差する。
「……ネル子には、逃げられたか」
「仕方がない。しばらくは泳がせておけ」
「我々は次の準備に入るとしよう」
「さぁ、目を覚ますのだ」
「あうー。ここ、どこですー? それにしても、身体が痛いのです。変なポーズで、ずっと固まってたのです。きっと、そのせいなのですー」
「おはよう――、ポレアン」
【刈り取れ! ネル子さん】
完……?
※この物語はフィクションです。