※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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ばっ、と二人が後ろを振り返れば、開けた広場からは視認し辛い遠くの木々の隙間に、薄っすらと蠢く影をようやく眼に入った。しかし、この距離は明らかに互いに普通の魔法ですら射程外だ。当然、警戒することのない距離でもあり、囲まれても尾行されてもいないのだろう。戦闘態勢すら早過ぎるくらいだった。
「…取り敢えず、襲ってくる雰囲気じゃないが…二人は私を迎えに来ただけだろう。場所を移そう。」
「はい、そうですね。」
「その前に威嚇する。今日は討伐が仕事じゃないからな。多少森を荒らしたし、追っ払って帰ってもらうか。」
そう言いながら二人の間をすり抜け、真っ直ぐに視線を前に持ち上げる。と同時に、手元でふわふわと浮いている球体の宝石のようなものがバチバチと電撃を起こしながら、ゆっくりとリンドウの手元を離れ上空へと昇っていった。
「威嚇だから派手にいく。音でかいの鳴らすから、耳塞いでな。」
「…?」
「アスカ、言う通りにしよう。でないと飛び火するぞ。」
ロスウィードの言葉を最後に耳に入れながら、訳も分からず両耳をしっかりと手で蓋をする。だがやがてビリビリと、ゴロゴロと、聞こえぬはずの音が全身を震動のように駆け巡った。
はっと上を見やれば、そこには先程まで存在していなかったはずの雷雲が渦を巻いて頭上に鎮座しており、稲光を軋ませながらあの球体に帯電していた。デイン系の魔法ではない。本物の雷雲を引っ張って、さらにそこから雷そのものをあの球体に引き寄せていたのだ。突然のスケールの拡大に、アスカは思わず絶句した。
そして、耳を塞いでいて聞こえない筈の二人を尻目に、リンドウはぽつりと新技の名前を呟いた。
「巨星の雷斧(アステリオス・ベルト)。」
空中に溜まった雷のエネルギーが凝縮され、そして一気に解放される。
周囲を包む逆行。静寂。からの、轟音。
「っ…、…!!」
国にまで響くであろうその落雷の音が叩き付けられたのも束の間。電撃は一気に木々の合間を走り抜け、怪物たちが隠れていたであろう距離どころか一瞬で森を抜け、光の河の如く雷光が大地を裂く。
耳を塞いでも聞こえないどころか、素の状態なら鼓膜が破れるであろう雷音に引き裂かれるように、落雷の音は容赦なく二人の手を弾かせようとする。およそ確認できただけでも、自分の数歩前には巨大な雷がそのまま落とされたかのような光景であり、二人はただ衝撃に引き裂かれないようにするのが精一杯となった。
「…流石、だな…。」
再びの静寂。何度体感しても慣れないといったように、ロスはゆっくりと肩の力を抜いた。一方のアスカはまだその迫力に見惚れるように、また衝撃で麻痺したかのように、開いた口が塞がらなかった。
「…すごい…。」
強い技が使えたからではない。魔女だからでもない。
ただ、すべての振る舞い、言動、オーラ。それらをまるで普通であるかのように何一つ臆せず、気負わず、張り切らず、普通にやってのけてみせたことが、一瞬でアスカに彼女が強者であることを訴えかけるようだった。
未だ雷撃の跡は消えず、リンドウの周囲を稲妻が駆ける。それでもそれはただの残り香で、あれだけの高威力の技の反動もまるで無いかのように、リンドウはようやく自分を訪ねてきた二人に声をかける。
「久し振りだな、ロスウィード殿。また部下振り回して困らせているのかい?」