※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「…まあいいです。"私の方"の用事は、依頼じゃなくて連絡事項ですから。」
「あん?まだ何かあるのか?」
一定の満足を得られたのか、諦めがついたのか。何かに納得したロスウィードが、次の要件へと移った。
「非公開クエストの続報ですよ。リンドウさんは信頼に足るので今回も伝達対象です。
『魔法戦士団大量殺人事件』の件。
犠牲者はあれからさらに8名増えて、遂に50人を超えてしまいました。おそらく犯人はヴェリナード近辺に未だ潜伏しているのでしょう。これだけ伝えておこうと思って。」
「…!」
淡々と語るロスであったが、その目つきは明らかに飄々としたものではなく、真っ直ぐにこちらの瞳を狙っていた。上司の話を邪魔しまいと補佐に徹していたアスカも、少しだけ顔をしかめる。
「そもそも情報提供って言うが、私は乗らないって前に言ったはずだが?」
「ええ、聞きました。ですから依頼では無いと言ったじゃないですか。間違っても一人で退治しろだなんて言いませんよ。」
ロスウィードの声色が険しくなる。事態の深刻さと敵の強大さには薄々勘付いているというメッセージであった。
「そもそも、彼女と戦おうなんて考えないほうがいいかと。
…国は、犯人の危険度をさらにAランクに格上げしました。
奴の武力は、最早条件さえ揃えば一個師団を凌ぐというのが、戦士団の出した見解です。」
ちなみに、Aランク=2~3リヴァイというニュアンスである。
「…わからんな。私に情報を与えて、私に何を期待してるんだ?」
ロスウィードの言動は、明らかにリンドウよりも飄々としてて怪しかった。リンドウを巻き込もうという意図は見えるが、そこから何をさせたいのかが分からない。
「またまたー、わかってるでしょうー?今後も食客候補として情報交換しましょーって事ですよ。クエストを優先する代わりに、って事です。こっちなりの誠意ですよ。」
「誠意、ねえ。」
「実はウェリナードで既に追跡班を作って、犯人を追っていまして。というか何を隠そう、私が追跡班長なんですよ。
『何かのついで』でいいので、情報を掴んだらこっちにも回してほしいなってお願いです。"女王様の依頼"なんかのついでにね。そうすればあとは私達が"やります"から。悪い話じゃないでしょう?」
いつの間にかその口調は砕け始めて、しかしそれに反比例するようにロスウィードの雰囲気は圧を醸し出すようになっていく。それは、かつてアスカが信頼を預けたロスウィードの顔そのものが浮き出ていた。
「奴が何の意図があってこんなことをしでかしたかは不明ですが、私達の国を荒らし回った。その落とし前をつけさせなければ私の首なぞ、はした金にもならないのでね。
私、この件に関してはガチなんで。ケツに火がついてるんですよ。よろしくお願いしますね。
貴女は自分を魔女と言って嫌われ役を演じますけど…こう見えても、私はリンドウさんを本当に高く評価しているのです。
奴がくたばってくれた方がリンドウさんにとっても都合がいいでしょうから…ね。利害の一致ってことですよ。」
ロスウィードは自分を冒険者であり軍人であると言うが…本来それは相容れない相貌のようなものだと、リンドウは捉えていた。
軍人という生き物は嫌いではないし、彼らには彼らなりの浪漫や夢にも溢れているが…それは敵も味方も関係なく、大量の屍の上に成り立つものが前提だ。
ときに軍の狗と蔑まれ、己の信条やプライドまで穢し捨て去り、それでも自分よりも大切な何かの為に命を懸ける覚悟をし続けなければ、とてもやってられない生業だろう。
魔法戦士団のような薔薇ではない。綺麗事が理不尽に塗り潰され、おぞましい何かしか残らない死さえも、最後の散りゆく姿さえ美しいと美化される桜のよう…そんな仕事だ。偏見だとは思っているが。
けど、だからこそ、それに命を懸けるロスウィードの言葉は信に足る。だから女王から遣わされたのだろうから。
「…やっぱアンタは軍の人間だよ、ロスウィード殿。ま、それを理解してしまう私も、同類ではあるのかもな。」
ほんの数分のやり取り。傍目には相容れない二人の、そこまで厚くはない信頼による最低限の協力関係。
しかしすでに互いの情報交換、概要の説明、今度の方針までもが既に終えられており、互いに納得する形で終えていた。
この暗黙の了解が行われた瞬間から、リンドウは再び天命の因果に巻き込まれていくことになる。
"魔女"という生き物の、悲劇の宿命に。