※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「しっかし、アンタも大変だよな。」
女王陛下からの依頼のために、アスカを箒に乗せてヴェリナード城へと戻っていたリンドウは、彼女にそう切り出した。
「え?」
「ロスウィード殿だよ。アンタの上官なんだろ?」
こんな話を堂々とできるのも、肝心の本人が「では私は別件があるので、ここで」と用件だけ伝えてさっさと何処かへ行ってしまったからである。相変わらず勝手な奴だとも思うが、二人とも慣れてしまったので別段気にしていない。
「大変、ですか…どうでしょう。私も好きでやっているようなものですし、何だかんださっきも助けてもらえましたけど。」
「でも結局、アイツ女王陛下からの依頼をダシにしたんだぞ?一冒険者上りが、女王陛下の依頼を自分の『お願い』に。まともな神経してねーから。振り回されて苦労すんぞー。」
「まあ何となく、ダシにしたのは分かってますよ。けど、そういうしがらみとかは気にせず突き進みたいって人ですし。」
手段を選ばない人だからこそ、その仕事ぶりは徹底して真っすぐで躊躇わない。そんなところに好感を持つんです。リンドウさんもそういうところ、嫌いでは無いのでしょう?と、意外にもしっかりと意見を返してきたアスカに聞かれ、少しだけ考えてしまった。
「…さあ。どうさねえ。あんまり考えた事はないや。」
ウェリナード海軍軍令部所属特務部司令部長ロスウィード。階級は准将。冒険者の中から引き抜かれたという珍しい経歴の持ち主。
そのやり口は常に冷静かつ合理的。ゆえに狡猾かつ非情であるとも言われる。
そういう訳で彼もまた、一般的にはあまりいい評判を聞く人物ではない。
しかしその人物評価はあくまで冒険者からの声であり、軍内部からの評価はそれなりに高い。それは自分の都合を優先せず、国や軍の目的達成を最優先できるということ。世間一般の倫理を差し挟まない。
同時に冒険者でもあるゆえ、冒険者の扱いも上手い。軍に携わるからと冒険者を杜撰に扱うかと言えばそんなことはなく、感情方面ですら後を引かない合理性までをも配慮する。
『情』にも『善』にも溺れない。軍人としては理想に近い在り方だった。
その手加減の無さから、時に汚れ仕事さえも請け負うが、その事に関しても一切躊躇はしなかった。汚れ仕事であるのに綺麗事に拘っていたら、案件など一個も片付きやしない。それをロスウィードは分かっていた。
ちなみに、アスカは中佐である。
「それはそうとして…私のことは呼び捨てでいいぞ?さん付けはなんだかくすぐったいしな。」
「いえ。リンドウさんはヴェリナードの大事な食客として扱うよう、ディオーレ女王から仰せつかっていますから。」
「…やれやれ。わかったよ。よろしくな、アスカ殿。」
「ええ、リンドウさん。」
話してみれば、彼女はとても魔女とは思えぬほど穏やかで、フランクな人物だとアスカは感じた。ああいや、実際は魔女では無かったのだっけ。
そしてリンドウも、真面目で地に足のついた歩みをする彼女に一定の納得を示していた。ああ、これはこれで、ロスウィードとは相性がいいのかもしれない。
そんな風に、互いが互いを知る機会を経て、女王への謁見へ向かっていた、が。
「リン、ドウ…?」
不意に、脳を駆け走る記憶の逆流。聞き覚えのある声は少しだけ大人びていて、けれどもその姿は色褪せてはおらず、振り返った際に向き合ったその人物の名を、リンドウは思わず口に出してしまえた。
「アザミ…?」