※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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森の外れにて、二人の魔女が佇む。
一人は、光を浴びればほんのり淡い藤色を帯びる白い装束。箒を肩に担ぎ、女性にしては少し長身に三角帽を被る姿は、いかにも魔女といった風貌。魔女帽の奥から紫色の瞳は光を讃え、全てを見通そうとする。
もう一人は、目を引く首元の赤いマフラーに、ウェーブのかかった長めの黒髪がふわりとかかっていて、前髪の合間から金色の瞳が輝いている。腰には魔導書を携え、全体的に黒を基調としたイメージを与える。
「うお、マジかよ…!本当にアザミじゃねーか!ひっさしぶり…で…。」
「本当にリンドウなのね!何年ぶりかしら!元気にし…て…。」
アスカと共に城へと向かっていたことを一瞬忘れ、真っ直ぐにリンドウはその彼女へと駆け寄った。知り合いなのかは分からないが、どうやら互いに見知った顔であるらしい。が、なぜかその足取りはすぐに速度を落とし、顔を見合わせるほどの距離になった頃には、明らかに感動とは違う空気が流れていた。
「…久し振り、だな、本当に…。あれからもう、何年だ…?」
「…もう8年よ。大変だったわね、リンドウ…。まさかあの人が、あんな事故で命を落とすなんて…。」
「いや、いいさ…。あれはもう、私じゃどうしようもなかった…。アザミこそ、魔女狩りなんて、な…。」
「いえ…覚悟はしてた、もの…。」
顔を俯かせたまま、リンドウも目の前の女性も、目が笑えていない。口を挟むつもりは元から無かったが、それでも何も言わない方がいいと、アスカは無意識に感じた。
「えっと…その、そ、そうだ!私もあれから頑張ってさ。やっと賢者の石が手に入る。しかも二つさ!お前と私の分だ!」
「…そう。それは…師匠たちも喜んでくれる、わね。これでやっと、お互い、本当に魔女になれる…。」
「…。」
「…。」
アスカには話はほとんど聞こえてこないが、二人の間にはただならぬ重苦しさが、そしてその二人以外は誰にも近づいてはならないような、形容しがたい空気が確かにあった。二人の間に何があったのか、聞かずにいられるほどアスカは老練してはいない。
だが。
「…ふふっ。」
「くくく…。」
「ははははははっ!久し振りだなぁアザミ!元気にしてたかよ!」
「してたわよ!そっちこそなによ!随分立派になったじゃない!」
重苦しかったはずの空気が一気に解け、笑みが零れたかと思うと一気に笑い声が響く。アスカは互いのあまりの豹変ぶりに困惑するだけだったが、あれほどはっきりと笑うリンドウを見たのは初めてだった。
「…ああ、本当に。立派になったよな。」
「お互いにね。一緒に戦ってた日々が懐かしいわ。元気してた…?」
「当ったり前だろ…!生きてたんなら連絡寄越せっつーの!」
難しいことも、陰謀に満ちた裏事情も含まず、本当に嬉しそうな表情をして涙さえ浮かべていた。
その時の表情は、フリーの魔術師ではなく、世界を"冒険者"として旅していたほんの僅かな時間のリンドウであり、そしてその頃の相棒だった、アザミ・グランキールだった。