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英雄の魔女

リンドウ

[リンドウ]

キャラID
: HS978-681
種 族
: 人間
性 別
: 女
職 業
: 旅芸人
レベル
: 121

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リンドウの冒険日誌

2020-04-19 20:05:20.0 テーマ:その他

【過去編】第2話『賢者の憂鬱⑤』

※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。

―――――――――――――――――――――

だがリンドウは、強かった。悪意に耐えられた。どれほどの悪意をその目に焼き付けようとも、まともな倫理観で善を尊び、悪を憎めた。それでも人の幸せを願う事ができた。誰かの幸せのために、自分の力の全てを捧げる事ができた。
それだけでも充分強い人間なのだとしても、リンドウは決して悪意に対して無敵な訳ではない。悪意に特別な抗体を持っている訳でもない。ただ悪意が発現しないまま、毒のように身体に溜まっているだけなのだ。
それは言わば、人間性という時限爆弾を抱えて生きているようなもの。いつ悪意が発現するか、悪意に蝕まれた自分がいつ魔女に身を堕とすか。誰からの保証はなく、闇の中を一人歩いている。
自分の存在そのものの隠蔽に拘り続けるゆえに、誰にも感謝されず誰の記憶にも記録にも残る事はない。彼女の行いは讃えられるべき事なのかもしれないが…少なくともそれはとても、見ていて気持ちのいい生き方ではない。

「…なあ、リンドウ。」
「ん?」
「やはり…ヴェリナード国の食客として、城に来る気はないか?」

だから少し、勇み足を踏んでしまった。ディオーレ女王は今だけ、ヴェリナード国を守る女王では無く、リンドウを心配する"後見人"の、一人のヴェディとして声をかけてしまった。

「最近、アストルティアが騒がしくてな。各国がそれぞれ自国の強化に気を急いている。バザグランデの事件すら、災厄の前兆でしかないほどと聞いて、私も少々焦っている。」
「…。」
「だからうちも今、人手を欲していてな。特に、世界を広い視野で見渡せる人手が要る。貴様がヴェリナードに来れば、いちいち依頼なんて面倒な事をしなくてもいい。魔女という話も、既に信用されている今ならそれほど大きな混乱も起きないだろう。」
「それは…。」
「…それに。貴女を守ってあげられる。なんて言うと恩着せがましいかもしれないが…、双方に利があると思う。どうだ?考えてみてはくれないか?」

リンドウは正直、ディオーレ女王のあまりのラブコールに少々警戒してしまうほどだった。
魅力的な話だ。美味しい話だ。とても嬉しい話だ。正直、一般のフリーランスなら狂喜乱舞するレベルだろう。
しかし正直、そこまでして自分に肩入れする理由がわからなかった。端から見ればリンドウは、自分をしつこく魔女と名乗る頭のおかしい魔法使いと見られていても不思議ではない。
ヴェリナードには幼い頃、マスターが生きていた頃に顔を出したり、依頼を受けて仕事をしたりはしたが、どれも一時的、仕事上の関係だ。それを一国の女王が、こうして何度も誘いを飛ばしてくる。
だが、それでも女王の言葉に嘘偽りが何一つないのは確かであるし、宴席に誘ってもらった際にも見知った顔の面々の態度は極めて紳士的だった。リンドウを特別扱いするわけでもなく、ただ一人の人間として信用を寄せている。それはとても、居心地のいい場所だった。
それに…。

「…それも、悪くないのかもしれませんね。でも、今は目の前の事、終わらせませんと。攻めていかなければならないですから。」
「たしかに…それもそうか。」
「まあ、考えておきますよ。社交辞令じゃあないですよ。本当に、考えておく。」
「わかった、急かしはしないさ。良い返事を待っているよ、リンドウ。」
「ええ…ありがとうございます、女王陛下。」

それに…私を勝手に師と慕う、小さな弟子たちも守ってあげられる。
弟子など絶対に取ることはない、取るべきでは無いと戒めのように掲げていたのに、放浪する内にそれほどまでに自分は絆されてしまったのかと、リンドウは少しだけ自嘲の笑みを浮かべた。
そんなわけはない。絆されるはずがない。熱でもあったのだ。絶対。

だって私は、悪い魔女なのだから。

「攻めなくては…か。」

ディオーレ女王の傍で二人の話に耳を傾けていたメルー公は、リンドウの態度に毒気を抜かれた気分だった。
彼女の腕は信用しているし、事情も概ね理解している。ただ、それでも最後の最後まで気を許してはならないし、初めて仕事を依頼したときは、もっと攻撃的で破天荒な人物に見えたからだ。
だが、今の会話で、なんとなく理解してしまった。彼女は本来、温和で聡明で…そして、魔法とこの世界を深く愛している魔術師なのだろうと。
悪意に触れ続け、なおまともな倫理観でいられるのは、悪意以上に彼女の中に、様々な愛で溢れているからなのだから。そうでなければ、悪意の魔導書の殲滅などという危険な任務を、自分を殺して続けられる筈もない。

ただ…一介の魔法使いであったはずの彼女の、一体どこにそれほどまでの愛が存在するのかを、会議の終了するまでメルー公は分からないままだった。
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