※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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日々、アストルティアをクエストを熟して生計を立てる冒険者は多いが、その中でリンドウはかなり恵まれた雇用主に拾われている。何を隠そう、それがヴェリナード国、ディオーレ女王や魔法戦士団である。
こういうのはフリーランスの経験がないと分かりにくいかもしれないが、安定した仕事の依頼をくれる雇用主というのはそれだけで垂涎モノだ。国に留まる機会は多くはないが、クエストだけは実に多くの仕事として熟してきたリンドウだからこそ、所有権留保という真似も信用されて成り立つのだ。
魔術師の業界を知るアザミと言えど、ハンターとして生きる業界には疎いので仕方ないのだが、それでも一定の理解を経て納得はしてくれたようだった。そのまま流れるように、アザミは再び口を開いて、こう言った。
「じゃあ茶番はもういいか。殺すね。」
空気が、凍った。
「は…え…?今、何て言った…?」
「まあ、今の話もまた嘘で、既に所有権も渡ってるのかもしれないけど…どっちでもいいわ。貴女が石を持っている。それは間違いないのだから。」
賢者の石とは、魔女にとって最後の希望。
「ヴェリナードが、20年生きている魔女を囲っているという噂を聞いて様子を見に来たのだけど…まさか、石を持った貴女だったなんてね…。迷信は信じないけど…奇妙な宿縁を感じるわ…。」
故に魔女は、よほどの事が無い限り、石を所有していることを他の魔女に悟られてはならない。
「おい、待て!アザミお前…気でも狂ったか!もうすぐお前の分も手に入るんだぞ!争って何の意味がある!」
もし知られたなら、侮ることなかれ。そいつは全ての力を以て、その石を奪いに来るだろう。たとえ、殺してでも。
「気が狂ったか、ですって?正気よ。さっきはまんまと騙されたけどね。心が揺れたもの。
『石はまだ持っていない。但し手に入れる予定がある。』
そう言われたら今すぐ始末するのが惜しくなるもの。でも考えてみれば信用できる要素なんてない。」
声を荒げ、リンドウは必死にアザミの殺意を押し留めようとする。が、その言葉のどれもが、干上がった大地に垂らされた一滴の雫の如く、アザミの心を潤しはしない。
すでに、砂塵の荒野を共に歩き続けた二人の心を安らげる、あの頃のオアシスは見る影もなく。思い出も安らぎも喜びも、全ては荒んだ風が砂埃と共に、過去へと運び去ってしまった。
「それに…石は一つあれば充分よ。死人には必要なくなるものね。」
両者を育てた花々の楽園は崩れ去り、土は痩せ衰え、水は乾き果てた。愛も、夢も、理想も、最早此処に在りはしない。
「それでも、かつて背中を預けた仲間かよ!モノ欲しさにそんな…!お前は曲がった事が嫌いだった!少なくともプライドは持っていた。大体…争う理由なんて無い!」
だが、悲しきかな。干乾びたオアシスなき砂漠の真ん中で、それでも両者は咲き続けた。泥を被り、灼熱の怒りに身を焼き、風に折れる事無く、生きる為だけに前を向き続けた。そうして二人は、あの頃など比べるまでも無く、強くなった。
「曲がった事は嫌いよ。今も昔も。私は何も曲がってはいない。私は私の義を通す。あの時、そう決めたのよ。それに…争う理由ならあるでしょう。」
グリモワを携え、金色の瞳がリンドウの視線を射抜く。その目には憎悪が満ちていて、怒りが彼女を突き動かしていて、そして復讐の炎に、その身をくべて立っていた。そうやって、アザミは顔を歪めて突き付けてやった。
「私の師匠を魔女狩りで殺したのは、ヴェリナードだったんだからなあ!!」
今やお互いへの灼熱のような殺意だけが、二人を結び付ける唯一の、絆。
「あ、バレました?」
ゆえに彼女たちは、戦う。すべては、生きるために。