※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「煙幕に目晦まし…相変わらずの小賢しい立ち回りね。けれど貴女は絶対に逃がさない。裏切られた魔女たちの無念を晴らすまでは。」
見失いはしたが、リンドウはまだ近くにいる。煙幕の残る森の中で、リンドウに聞こえるようにそう宣言する。だからお返しにと、リンドウも木々の陰に隠れてアザミへと殺意を叩き付けてやった。
「くっだらねえ。カッコつけてんじゃねーぞ。お前がやろうとしてることにピッタリな言葉教えてやるよ。
『強盗殺人』だこの人殺しが。何だかんだ建前で飾っちゃいるが、お前が欲しいのは私の賢者の石だろうがよ。美化してんじゃねえこのクサレビッチが。違うかねえ、魔法戦士団連続殺人事件の犯人さんよお?」
すでに調べはついている。アザミこそが最近巷を騒がせている魔法戦士団連続殺人事件の黒幕であることを。そして、龍脈を利用して大地からゴーレムを大量に生産でき、自身も地面を自在に隆起させられる、土属性の魔術を得意とする大地の魔女の後継者。それこそが、アザミ・グランキールであることを。
だがそれでも、リンドウのアザミへの所感は全く以て予想を遥かに超える強さだった。
冗談じゃない。なんて強さだ…!
アザミは昔から、単純に素の状態で攻防共にハイスペックなゴーレムを生み出すことは得意だった。だが当時は頑張っても生み出せる数はせいぜい2、3体が限度。それが小隊規模の兵力を、個人がさも当然のように展開して自在に指揮してみせている。
さらに、ゴーレム達が構えていた武器や盾。あれらは地中から作り出したものではなく、アザミのグリモワから生成されたものだ。 ダーク鋼、暗光砂、レアメタル針、etc…。それらを材料にして、ヴェリナードの即席武器錬成術を使いこなし、さらには数まで揃えていた。
ただでさえ、アザミには龍脈を詠み大地を自在に隆起させる魔術という武器がある。ひとたび地面に降り立てばアザミに感知され、遠距離だろうと土砂に呑み込み終わるだろう。
ゆえに、リンドウは空中に浮遊していた。箒に乗って地面に足を付けることなく、地中から感知されぬよう空中で姿を隠し考えを巡らせていた。
これが、A級危険人物。本気で一個師団と渡り合えるという評価に間違いはない。そもそもリンドウは、魔法の効かない魔女が相手である時点で、こちらの魔法攻撃を封じられたも同然なのだ。それに比べ、向こうは土砂や岩石という物理攻撃を以て魔法に高い耐性を持つ自分を仕留めに来る。
しかし、戦う前から不利なことなど解っている。手を尽くせ。生きる事に足掻け。事実のどれも、リンドウの思考を止める理由には貧弱だった。
もっとだ、もっと挑発が必要だ。絶対にアザミを生かしておくわけにはいかない。石の情報を漏らされる前に、何としても今、ここで始末する!
「どの道お前は賞金首だしなあ。実は私もお前を殺したくて仕方ないんだよ。お互い私利私欲のために相手を殺したくてどうしようもねえ!人の道外れた外道って事だ!」
安い挑発だろう。だがそれでいい。ほんの少し、ほんの僅か、アザミの心を掻き乱しイラつかせればそれでいい。それはいつか積もり積もって、感情任せな致命的な隙を生む。
薄っぺらな言葉で攪乱されているアザミの背後が、突如爆発した。爆風によって木の幹が吹き飛ばされ、真っ直ぐにアザミへと飛んでいく。しかしこの程度を捌くことなど、アザミには造作もなく、あっさりと大地を隆起させて作った壁で止めてみせた。
だが防がれていい。リンドウの目論見通り、アザミには確実にフラストレーションが溜まっていった。