※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「次!いきます!」
火砲に次々と砲弾が積み込まれ、その流れを決して絶やさぬように慌ただしく、しかし滑らかに魔法戦士団員が波となり甲板上を動いていく。クイーン・ヴェリーナに比べれば大分狭いが、それでもかつてないほど人員が乗り込んでいる私掠船は、作戦行動の中にあっても美しささえ感じるほど一人一人が的確に動いていた。その目には固い決意と、そしてほんの少しの、同胞を殺された怒りが燃えている。
怖え…と、観測員であるミャジは思わず零すほどにそう感じた。自分は戦士団員の一人に過ぎないが、それでもこの肌にビリビリと伝わる緊迫感を感じないほど耄碌はしていない。魔法戦士団の練度の高さが、統率の執れた個人の無駄の無い作戦行動で全てがわかる。思わず息に詰まるような空気と、そしてその中でも堂々と、どこまでも冷静に淡々と指揮を飛ばす指揮官…ロスウィードの迫力に、こちらも思わず背筋が張る。
「(撃)てぇ!」
砲が火を噴き、弾が空を飛んでいく。こっちの緊張感もすさまじいが、これに狙われている奴はもっと悲惨だろう。敵の本性を知った上で、それでも少しだけ同情してしまうほどに、ヴェリナードの魔法戦士団は圧倒的だった。魔女アザミを圧倒していた。それほどまでに、次元が違っていた。一方的だった。
「っぐ…う!」
着弾。それと同時に巻き起こる、爆炎と轟音。息もつかせぬヴェリナード海軍の艦砲射撃の雨に、アザミは完全に後手に回っていた。間一髪砲弾を避けるのが精一杯で、リンドウとの戦闘時のような動きのキレや戦力はあっという間に奪われ、人形たちの見る影もない。
「普通もう死んでるんだけどなあ…よく避けるもんだ。」
今回、狙撃の腕に覚えのある魔法戦士団員であるミャジはその目を買われて、艦砲射撃の着弾位置の誤差の修正を指示する観測員の一人に抜擢されていた。
元々、現代の護衛艦でもないのだから艦艇から陸上への射撃など命中率はかなり悪いのだが、そこは魔法戦士団員たちによる砲弾の誘導魔法によって大幅な砲撃の精度向上を行っている。どこにどの砲の弾が着弾したかを見極め、その誤差を修正するよう指示を送る。そしてその目の良さゆえに、敵の様子もよく見えていた。
今回の魔女アザミ討伐の作戦内容は、事前にリンドウから貰っていた彼女の情報を元に練られたものだ。類稀なる土属性の魔法の使い手。ゴーレムの使役による戦力保有。その他重力魔法による滞空や、近接戦のためのギロチンワイヤーを用いることなど、大方は出揃っている。ゴーレムの大量生産も、殺された魔法戦士団たちとの戦闘の痕跡から能力の成長も看破できていた。
その中で、アザミは現在艦砲射撃から逃れるため、ワイヤーアクションによる高速移動を実行していた。木の幹にワイヤーを結び付け、カタパルトよろしく加速し移動する。これだけでも大分常人離れしているが、それも逃げの一手の為にしか用いられていない。
明らかな防戦一方。アザミはジリ貧を強いられ、撤退するしかない状況。そしてその逃げ道をヴェリナード海軍の艦砲射撃と、現地で戦っているリンドウで追い詰める。これらの連携によって、アザミをじわじわと追い詰め疲弊させればいい。…やっぱり、エグい戦闘だ。いや、最早戦闘ですらないのだろうが。